第5話 オーディションに残された女たちの明暗
桜並木が続く歩道をコーラルピンクのスカートスーツで亜沙子は歩いていた。
肩には、小さなトートバッグを掛け、紺色の野球帽にピンク系のサングラスをしている。
ピンクゴールドのサングラスの
八坂は桜並木の途中にある大きな書店のガラス戸を抜けエスカレーターで二階の古典コーナーに寄った。
「あら、八坂先生、偶然ですね」
同期の
朝陽も八坂と同じ時期に赴任して来た高校教師だった。
背丈は、八坂と同じくらい高く、プロポーションも似ている。
八坂のファッショングラスと違い、朝陽の赤い
「朝陽先生、ちょっと聞いていいですか」
「ええ、いいわ」
「あの、朝陽先生は綺麗なのに、なんで分厚いレンズの
「ほら、
「ええ、そんなキャッチフレーズ、ありましたね」
「だから、あえて、この
八坂は、意味不明と言わんばかりに首を捻り、その意味を考える素振りを朝陽に見せた。
「八坂先生、意味なんてありませんよ」
八坂は、苦笑いを浮かべ“参照堂”の赤いジャケットに手を伸ばす。
「八坂先生も、その本がお好きなんですか」
「いいえ、ちょっと必要になって・・・・・・」
「実は、私も、必要になって」
薄笑いを浮かべた二人は、書店のレジに行き精算を済ませた。
「先生、上のカフェに寄りませんか」
「お茶ですか」
「ちょっと、肌寒く、温かい飲み物が欲しくなりました」
二人は、エスカレーターで上の階に上がり、カフェに入る。
ウエイトレスが、朝陽に気付き尋ねる。
「失礼ですが、モデルの
「はい、そうですが、何か」
「先日のオーディションでお会いした
「じゃ、あなたもモデルなの」
「はい、そこにいる、姉さんの妹です」
「でも、衣川と言いましたよね」
姉の
「よくある、家庭の事情で、妹と私は離れてしまったの」
朝陽は、八坂の言葉に次の言葉を飲み込み、曇った
近くのテーブルのカップルが
土曜の午後、三人はオーディション会場の更衣室に入った。
「すみれ、
「私、
しばらくして、紺色のパンツスーツの女性が更衣室に入って来た。
暗いオーラを身に
「オーディション担当の坂井明子です。お伝えすることがあります」
三人は、坂井の次の言葉を待った。
「二次、オーディションはありません。みなさんは全員合格です」
「あの、どういうことですか・・・・・・」
「他の参加者全員のキャンセルが発生しました。あなたたち三人だけが残りました」
八坂、朝陽、衣川の三人は、あとで坂井の説明を聞いて背筋が凍り付いた。
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