13
「だ、あ、うおおおああああ!」
巨大な砂漠龍の真ん前の空間に突然、クルーザーが出現した。レプタの雄たけびと共に大きな砂飛沫をあげて、砂面に降り立つ。
「な…?!」
「保全部隊だ…!」
「先輩…!!」
瓦礫を掴むやられ役AとCが驚愕し、バットは希望の声をこぼした。レプタが操縦席の中からマイクに喋る。
「あー、どうも、保全部隊です、皆さん無事ですか、このクルーザーの下に誰かいませんか」
「い、いない、全員ここだ、助けてくれ!」
「了解!」
Bの呼びかけに、レプタはドアから飛び出して甲板に乗る。何も遮るもののない満月の明かりの元、手を振る人影へ向かってロープ付きの浮き輪を放り投げた。三つ目まで投げると、最後の一つを龍に差し出す。
「カガシマ、そっちの方にもいる。俺からじゃ届かない、頼んだ」
レプタは目の前の龍がリンだと認識している。ためらわずに名前を呼び、協力を求めた。
女王龍はその浮き輪を受け取れなかった。深呼吸をしてから何か言おうとするが、言葉が出ない。
「…」
「…、今だけは人命救助を優先してくれ、話なら後でも、いくらでもできるだろ」
リンは少しだけ目を伏せると、浮き輪をバットに投げてよこした。その光景を横に、レプタが拠点へ連絡を入れる。
「こちらレプタ。全員生存状態で確保です、繰り返します、全員生存状態で確保です」
通信機の向こうからは、安堵の歓声が沸いていた。
「はー…、お疲れ、カガシマ。ありがとうな、何から話…」
通信機を戻して近付いてくるレプタに、リンが眉間に深い皺を寄せて後ずさる。
「…どうした」
「どうしたというか、あの、とにかくその匂い、何とかなりませんか…?」
リンが指摘したのは、先ほどから周囲に立ち込める強烈な柔軟剤臭だった。
「……ごめん、事情だけでも聞いて」
レプタが語るのは、ここに来るまでに使用した空間移動魔法の解説だ。
巡視部隊は非常時において、文字通り一刻の猶予もなく現場にたどり着く必要がある。そこで部隊員を乗せた船を空間移動魔法で動かし、出動準備からものの数十秒で到着するという方法が採用された。
しかし、この方法には欠点も多い。
まず、通常の移動よりもはるかに大量のマジックガソリンを消費するということだ。考えなしに乱用すると、救助どころか拠点に戻れなくなる。費用も恐ろしく膨大になる。
他にも、着地点を誤ると救護者に衝突する、移動の衝撃で船体に大ダメージが入り老朽化が進む、必要な魔力が高すぎる。挙げればきりがなかった。救護者にぶつからず、船体も守る高度な魔法を操る術者は、こんな安月給では雇えない。
今回の場合は、レプタの魔力を補うため、どうしても薬草タバコによる一時的魔力強化の必要があった。
「あれってそんな機能あったんですか…?!」
「実はね。要するに栄養ドリンクみたいなもん。依存しやすいところも一緒」
可能な手段を限界まで活用し、人々の命を守る。保全部隊の使命であり、絶対の任務であった。
「要するに緊急事態だから許してねって、そんだけ」
レプタが空笑いをする。どうにかして空気が重くならないように努めるが、それでもリンの表情は暗いままだ。
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