Café yakhtarで紡ぐ物語 第1話:空との出会い

猫田 ねこ

第1話 空との出会い

繁華街を一本入っただけで、異国のようなたたずまいの路地裏。雨上がりの濡れた石畳にほのかに反射する優しい光。ドアのカウベルが「からん」と鳴ると、店内は静かに息をひそめたような空気に包まれる。


店内には5つのカウンターと、ゆりかごのようなハンキングチェアーが1つ。薄暗い照明はステンドグラスのランプと、異国を思わせる不思議な香りのするキャンドルで、まるで洞窟や子宮の中のような安心感を与える。


~初めての客、空~


カウベルの音に反応し、カウンターの奥でマスターがそっと動く。性別もはっきりとはわからない、細くしなやかに動くその手の持ち主は、優しい声で言った。「お好きな席にお座りください」


耳触りの良い言葉に引き付けられるように、人影はカウンターに近づき、そっと端の席に座る。物珍しげに、そして少し不安げに店内を見渡す。


「ここは大丈夫ですよ」と、マスターがまるで心を見透かすように話しかける。 「ここはコーヒーしかないんだけれど…君には温かいミルクをお出ししましょう」 そう言って、少しぬるめのミルクを席に着いた人影の前に差し出す。


うつむく人影。「君は、どこか行くべきところがあるのですか?」とマスターが尋ねると、空はそっと首を振る。 「そう。まだ、行くところがわかっていないのなら、わかるまでここにいたらいいでしょう」


その言葉に顔をあげる空。マスターは微笑みながらさらに訊ねる。「君の名前だけ聞いておきましょう」 小さな声で「空」とつぶやく。 「空…良い名前だ。君にぴったりの名前です」


空は少しだけキャンドルに近づく。少年のような華奢な体つきと、薄茶色の髪、そして不思議な色をした目が光を反射する。


~この夜の安らぎ~


「今日は、もう遅いからここで寝ていくと良いよ。カウンターの奥には私が時々休憩で使うソファベッドもあるし、暖かい毛布もあります」 「さっきも言ったけれど、コーヒーしか出さない店だから、大した食べ物はないけれど、空が食べられそうなものを作っておきましょう」


空はしばらく黙って座り、店内の柔らかい光と香りに包まれる。初めての場所でも、どこか懐かしいような安心感。まるで、ずっと待っていた場所に辿り着いたかのようだった。

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