現代ダンジョンにやってきて~謎のジョブ【名付け親】になった僕。名付けた木の枝が、妙に強い~

あげあげぱん

第1話 謎のジョブ【名付け親】

 石造りの壁に囲まれた広場。天井は高い。光源が無いのに不思議と明るいダンジョンの中で僕は途方にくれていた。

 

 東京都ソラキツネ市にあるダンジョン。迷宮に入ってすぐの広場。僕の周囲ではダンジョンに入った初級冒険者たちが、お互いのジョブの情報を交換している。


 彼らは誰とパーティを組むべきか決めているのだ。そういうパーティの決め方も良いと思う。


 もちろん、あらかじめパーティを作ってからダンジョンに挑んだって良いだろう。というか何が正解で何が不正解か、はっきりとは分からない。


 なにせダンジョンに一般人の進入が許可されるようになってから、まだ一時間も経っていないのだ。自衛隊が先行して調べた情報を公開しているとはいえ、不安は大きい。


 不安は大きいが、一年前から出現していた日本のダンジョンに挑むメリットも大きい。ダンジョンで入手できる宝や魔物の素材を持ち帰れば一攫千金も夢じゃない! 


 僕も一攫千金を目指してダンジョンへやって来た一人だ! 一人なのだが……現在進行形で困っている。


 僕はダンジョンへ入る時に発生した冒険者カードを眺める。あまり何度も確認したくないが……現実を受け入れるためにそれを見る必要があった。そこには、このように書かれている。


【冒険者No.a-24】神野ハザマ

 冒険者ランクF

 レベル1

 ジョブ:名付け親

 スキル:命名

 筋力F

 技量F

 魔力A

 体力F

 耐久力F

 潜在能力F


 このジョブも、スキルも、どっちも先行公開された情報には載っていないのである! そのうえ基礎ステータスが魔力以外終わっている! 魔力がAもあればそこに注目されるかと思いきや、魔力SとかEXとかいうのが、たまに居るらしく注目はそちらに集まる。


 つまりだ。僕とパーティを組もうと思ってくれる相手がなかなか居ないのである! これは、かなり焦るというか不味い状況じゃないかな?


 さっきからパーティを組まないかと周りの人たちを誘ってみてるけど、僕のステータスを見ると逃げていく。なんでダヨー! いや、なんでかは知ってるんだケドー! このままじゃ入り口に入ったとこから進めないよー! 


 一人でダンジョンに挑むのは流石に怖いし……うぅ……ここまで来て帰るしかないのか。なんて、考えている時だった。


「……ねえ君。まだパーティは組んでない?」


 僕に声をかけてきたのは同世代くらいの巫女さんだった。たぶん、まだ十代だと思う。長い黒髪が艶やかで見惚れてしまう。あれ……でも……喉仏が出てる? なんか変だぞ?


「や! ボクは蜜柑子ミカン。女の子みたいな名前だろ? だが男なんだな。これが」

「ど、どうも。神野ハザマ……です」

「ハザマ君か。素敵な名前だね! 君、巫女服とか興味ない?」

「興味……無いことはないですけど……」


 僕が着る趣味は無いが。

 

「そいつは良い! 君とは気が合いそうだ! ボクの目に狂いはなかったな! うん」


 ……この人なら、パーティを組んでくれるかもしれないと思った。ちょっとクセはありそうだけど味方ができるなら歓迎だ! 


 で、でも僕のステータスを見せて、拒絶されたらどうしよう。そう思うと、少し怖い。


「……君のステータス。見せてもらっても?」

「ど、どうぞ……」


 緊張する。今日はどうも弱気になっていけない。いつもはこんなじゃないのに。妙なジョブになってしまったからか、気弱になってしまっている。彼の反応を考えると気が重いけど、ミカン君にカードを見せる。そして……。


「君……興味深いジョブだね! うん、素敵だ。もし君さえよければ、一緒にパーティを組んでほしいな!」

「ほ、本当!?」

「本当!」


 ミカン君はグッと親指を立てて答えてくれた。彼が僕とパーティを組んでくれるのなら、とても嬉しい。


「……と、ボクのステータスも見てもらわなくちゃ、フェアじゃないね! ボクのステータス。確認してよ。ボクのステータスも、ちょっと珍しいものなんだけどね」

「あ、うん。そうだね」


 ミカン君に渡された冒険者カードを確認する。彼はボクのことを誘ってくれた。なら彼のステータスがどんなものでも受け入れる。そう考えて、見せてもらったステータスは珍しいものだった。


【冒険者No.a-24】蜜柑子ミカン

 冒険者ランクF

 レベル1

 ジョブ:オカンナギ

 スキル:カグラマイ

 筋力E

 技量E

 魔力A

 体力E

 耐久力E

 潜在能力A


「オカンナギ……カグラマイ……? どちらも公開済の情報には載ってないよね?」

「そう! 載ってないんだ。でも、だからこそ面白そうだろう!」

「なるほど」


 なんとなく、ミカン君は僕よりも度胸があるのではないかと思った。謎のジョブにも動じていない。その度胸は羨ましく感じられた。


「オカンナギっていうのは巫女の男番みたいなものだと考えてくれたら良いよ! カグラマイは、その名の通り神楽舞い。神様のための舞いみたいな能力だと思う。ステータスに謎は多いけど、ボクと組んでみない? 将来性は、抜群だよ!」


 確かに、ミカン君の将来性は抜群かもしれない。それに、一人で挑むよりも二人でダンジョンに挑む方が安心だ。彼の誘いを断る理由は無い!


「もちろん! 一緒に冒険しよう。ミカン君」

「決まりだね! これからよろしく。ハザマ君!」


 こうして、僕たちは仲間になった。これから先のことを考えて期待と不安でドキドキする中、ミカン君は「ところで」と僕を見る。な、なんですか?


「今日の冒険なんだけど。配信しても大丈夫かな? 顔とか隠すなら、お面貸すから!」

「へ……?」


 配信ってのは、予想外の事態だよ!?

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