純然
白川津 中々
◾️
社会人になり、パワーがなくなってきた。
義務。責任。体裁。あらゆるしがらみが俺から俺らしさを奪っていく。聞き分けがよくなり愛想笑いも板についた。いつだって柔和な態度でコミュニケーション。求められているのはそう、調和。社会で生きていくには個の色を塗り潰さなくてはならない。そうしないとお仕事なくなって死んじゃうのである。金。金が全てよ。
死にたくはないがさすがにパワーが切れてきたというところで、この退屈極まる毎日を払拭すべくワイヤレスイヤホンを買い音楽のサブスク配信サービスに加入した。枯れた日々に潤いをもたらすのは心に響くミュージックである。早速通勤時両耳にカナル式のイヤーピースを差し込み再生する。曲はランダム。とりあえずヒットチャートでも聴いてみるかというつもりであった。
だが、流れてきたのはVir⚪︎in Killer。学生時代に好んでいたメタメタのロックである。この日、サービス登録後初めての利用であり設定もしていない。にもかかわらず、俺が俺らしくあった時代の曲が流れてきたのだ。これは、運命のような気がした。パワーが、漲ってきた。
「どうでもいいんだよ馬鹿野郎!」
溢れ出る衝動のままに窓から満員電車を飛び降りダッシュで会社へ到着。「全部ぶっ壊してやる」と叫ぶ。言葉通り備品からなにから全て破壊して上長をぶっ飛ばしてやった。これが、これがロックだ、俺なのだ。社会に馴染んだふりをして、大人になったように振る舞うなんて、俺じゃない。この世全てに唾を吐きかけてやるのが、俺という男ではないか。
生まれ直した今日、きっと捕まるだろう。賠償金も恐らく、洒落にならない。
だが俺にはロックがある。ロックがあれば俺として生きていける。それ以上に何を求めるというのか。素晴らしき我が人生、我がロックよ。儚く脆く、永遠なれ。
俺は,パワーを取り戻した。
純然 白川津 中々 @taka1212384
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます