六つ連様 ─モツレンサマ─
白湯の氷漬け
【前編】一 いつも通りの帰路、緑の夕焼け
両足首を掴まれた感触で目覚めた。
朦朧としたまま藻掻こうとして、身動きが取れないことに気づく。帰宅途中の満員電車で寝てしまっていたらしい。足首の奇妙な感覚は消えていたが、ぼんやりとした不安が広がっていた。人波に揉まれ、悶々とし、肩に知らない人の汗が流れるのを感じた。
初夏の暑苦しい車内から必死に降りる。改札の切符挿入口を狙い、最低限度かつスムーズな動きで、よし完璧だ。しかし家に帰るまでが退勤だ。つまりまだ仕事中。なんという悪夢。通勤バッグを手汗ごと握り直す。
階段を上りきって顔を上げると、冷ややかで新鮮な空気が肺を喜ばせた。綺麗なエメラルド色の夕空にほっと息をつくと、ちょうど六時の鐘がくぐもって響いた。
さて、目的地である公園は近いが、道中は暇そのものだ。しかしここでイヤホンをつけるなどして、五感のどれかを塞いではならない。これはこの町にある三つの掟のひとつである。
他の二つは、夏至と冬至に祭りを催すことと、その儀式で祈りを捧げることである。今日がその夏至であり、今着いた公園が会場だ。一本道の両脇に屋台が並び、突き当たりに石畳の祭壇がある。昔はそこに神社があったというが、今はその末裔が引き継いでいるらしい。
つまるところ、むかし神社で祀られていた「モツレンサマ」という神が、三つの掟の最大要因だ。
モツレンサマはこの町をいつでもどこでもお散歩しているらしい。こちらがしゃんとしていれば良いが、掟を破るとモツレンサマの神気にやられてしまう。やられると、連れられるか食べられる。
だから絶対に地に足つけて歩かねばならぬ、と、……このことは誰から聞いたんだっけか。まあ慣れてしまえばなんてことはなく、楽しく住める町である。
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