17 追跡
道は石畳だ。靴音がしないように、慎重に歩く。
クラウスさんは軍人だから、もしかしたら夜道では普通の人より周囲に気を配っているかもしれない。俺は建物の陰にたびたび隠れながら追う。
クラウスさんは手ぶらだ。街灯があるから、カンテラだとかはいらない。剣も持っていない。剣……、つまり魔物の討伐ではないようだ。
そう言えば、あの魔道具店の方向に進んでいないな、と気づく。もしかしてあの人と約束したわけではないのかな? いや、でも店ではなく、家でってことも……。
そうこうするうちに、俺はさらなることに気づいた。周囲の雰囲気が変わって来ている。街灯の明るさがやや抑え目になっている。道にはクラウスさん以外の人もさっきから通っているが、この辺り、なんだか男が多いような。女性もいるが、一人ではなく男と一緒で、その片腕に両腕をからめて、こう、しなだれかかっているような……。
道沿いにある店々の、軒先の下の明かりも抑え目。どの店も、ドアの横の壁には花入れがあって、それぞれ一種類の花が数本ずつ飾ってある。バラらしき赤い花やオレンジ色の花、紫の花。……なんとなく、エロい。
帰還者向けの本『今読もう、暮らしの常識』には書いていなかったけれど、この辺、いわゆるそういう区域なのではないだろうか。
(あ)
クラウスさんが、一軒の店に入って行った。
ドアが閉まると、俺はその店の前に駆け寄った。
白い花の店。窓のカーテンは他の店と同じように閉まっている。でも、向こう側の明かりが抑え目なことは分かる。
「よう、にいちゃん、入らないのか?」
知らないおっさんに声をかけられた。
「お、きれいな顔してるな、もてるぞ」
「ん? 若くないか? まだ早いんじゃないか」
おっさんは三人連れだった。みんな、酔っぱらっているようだった。
「なあ、おじさんたち。この店ってさ、女の人と酒飲む店? それともそれ以上の店?」
俺は聞いた。
「まあ、金があって気が合えばそれ以上になれるな」
最初のおっさんが答えた。
「そっか。じゃあ、俺はこれで」
「おお、金がないのか?」
「まさか好きになった女がここで働いてたか?」
「元気出せよ」
俺は宿に戻った。
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