そのクエスト、おかしいです。

ジョン

プロローグ






 どうしてこうなってしまったのかと、青年はしみじみ思う。青年が生まれてから早二十数年。農家として一人暮らしを始めて七年。今日も田畑を耕していた時に、その少女はやってきた。

 宝石のついた杖に黒いローブと、誰が見ても魔法使いと分かる格好だ。その少女と出会ってからというもの、青年の静かな暮らしは一変した。


「ねぇー! “リト”さん、助けてよぉーー!」


 青空の下、のどかな草原に囲まれた畑から少女の声が響く。その眼の端からは涙が滝のように流れていた。

 しかし、少女の涙に、青年は鬱陶しげに目を向ける。初めは少女の涙に心配もしていたが、今ではもう同情のかけらもない。

 少女が青年の家に来るときは、いつもこうだ。青年は鍬を土に突き立て嘆息をもらす。


「いい加減にしてください、“アルファ”さん。ここはギルドの酒場でもなければ教会でもないんですよ」

「だってぇ、私だけじゃクエスト達成できないんだもん! 何かアイデアちょうだい!」

「魔法使いが何言ってるんですか。僕はただの農家ですよ。そういう情報は同じ冒険者の誰かに聞いてください」

「やーだーー!」


 まるで子供のように泣きじゃくる少女に、青年は顔をしかめた。


「この際、農家でも遊び人でも良いんです! 助けてぇ!」

「生憎ですが、お帰りください」

「うわーーん!」


 少女はさらに大泣きし、青年はまた大きなため息をつく。

 この二人のやり取りがはじまったのは、およそ一か月前にさかのぼる。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る