選択肢

安倍邸に戻り半月が経った。

溜まっていた神気も、霊力も安定して落ち着き体力も回復した。

安倍邸で過ごしている間に身につけているのは、壺装束か狩衣。髪の毛も後ろでひとまとめにしているのでかなり楽である。

この時代の安倍家は男児ばかりで、先月待望の孫娘が生まれたらしい。

それでも2台目さまの奥様、若菜様は娘が欲しかったらしく体力が回復してからは日々着せ替え人形と化している。

それでも日々の日課となりつつある禊と、武術の鍛錬は狩衣で行っている。

あと神気を発散させるために豊穣の舞を中心に舞も舞っている。

雪華が張り切って色んな衣装を持ってくるものだから、こちらもこちらで着せ替え人形だ。

そんな若菜さまと雪華がすっかり意気投合をしたので、密かに私はぐったりしている。

楽しそうだからいいのか疲れでもどうせなら、他の神将を呼ぶからそちらでやってほしいと思う私もいる。


「主ー!!!!」


与えられた部屋で若菜さまに着せ替えられているとバタバタと琥珀が駆け寄ってきた。

続いて人の足音が続く。


「え?なっ・・・・・・・・。」

「時平いるか?!」


琥珀の後ろから現れたのは狩衣姿の春宮さまだった。

私とバッチリ目が合い視線が下がりまた上がる。


「・・・・・そなた、時平・・・か・・・・?」


今の格好を見下ろせば肌よけのみで、固まっている若菜さまと春宮様。


「青にぃいいいいい!!!!!」


袖を通していた袿で胸元を隠すと青にぃを呼び背中に隠れる。

肌がもろ見えなわけじゃないのだが、なぜか恥ずかしいと思ってしまった。

今更バレバレな気もするが、仕方ないと思う。

やってしまった。

私の叫び声を聞いて駆けつけた神将たちも姿を現した。

そして室内の状況を把握すると、油断していた。といった表情をした。


そのなかで、袿の上からさらに唐衣をかけて私を包むと青龍は塗籠に私を隠し着替えるようにいって扉を閉めた。


さて、なんて言い訳をしようか。

女装が趣味です!とか?いや、晒しで潰していない胸天然物は誤魔化せない。

ここは開き直るしかなくない??


〈雪華!こっちにきて!!〉

〈うむ。〉


雪華を呼んですぐに塗籠にきてもらって、着付け途中の衣装をどうするか考えた。


〈なんで、春宮さまがいらっしゃってるの?え?直衣姿の方がいいの?〉

〈姫さま落ちつて。もうこの際、素性を明かしてもいいのではないかのう?〉

〈つまり、姫さまの大嫌いな十二単になるのぅ。〉

〈ですよね~。〉


と諦めて、雪華に十二単を着せてもらう。

髪も綺麗に纏めてもらった。

顔を今まで散々見られているので、緋扇で隠す必要はないのでは?と思ったのだが、しっかり持たされて着替えている間に移動した男性陣の元へと向かった。


客間の前でにやって来た私は盛大にため息をついた。

入り口に朱桜、琥珀、青にぃが待っていたのだ。

私の後ろには、女房装束を着た雪華もいる。

まぁ、バレちゃった訳だし仕方がないよね、みんなのこの警戒具合。

誰にって、春宮さまに対してだろう。

若菜さまに促されて室内に入った。


室内には晴明さまと春宮さま、そして春宮さまの側近で乳兄弟の敦成あつひらさまがいらしていた。

きちんとした所作で室内に入ると、座るように促されたのでそのまま座る。

私の後ろにはそれぞれ思い思い神将が座るが、青にぃだけは私を隠すように私の前に座った。

ん~、少し邪魔。


「晴明、説明をしてくれないか?どうなっておる?何かの術で性別を変えることができるのか?」

「いいえ。性別を変えることはできませぬ。」

「春宮さま、発言の許可をいただいても宜しいでしょうか?」

「構わぬ。」

「ありがとうございます。まず私は性別学上“女“です。それに安倍家の血筋ということは偽りがございませんし、陰陽師としての修業も習得しております。偽っていたのは性別のみ。この性別に関しても主上もご存知ですもの。それに初めは春宮様の女御としてと言われましたが、あいにく仮でも恋愛感情を抱いていない方の妻になるのは嫌ですし、無理やりそこを押し込まれるのなら、私の配下のモノが黙っておりません。」


緋扇で顔を隠しながら、社交界で兄様たちがしていたように対応をする。


「知った上で、渡井の元へ付けられたのか?」

「あいにく晴明様と同格の術者はなかなかおりませぬ。私は、同じ位置におりますので主上も悩まれたのではないでしょうか?」


一応当たり障りなく説明をする。

とりあえず、洗濯が増えたと思う。

このまま安倍邸に残るか、時平として出仕をするか、皐月として入内するか。

春宮さま自体は嫌いじゃないのだけれどね。

優しいし、一緒にいて安心するし、面白いし。

ただ扱いが雑というところ以外。

まぁ、私も婚約者候補がたくさんいる訳だし、

いくらわからない人とはいえ、それはそれでどうかと思うのよね。


うーんと考え事をしていれば、朱桜に抱き上げられた。


「話はもう終わったのだろう?我々は下がらせてもらう。」


不機嫌オーラを醸し出す朱桜に続き他の神将たちも立ち上がり返事を聞かずに部屋に戻った。

案の定朱桜と青にぃ達からかなり力を奪われしばらく寝込むことになりました。

そんなことよりも、私の心に残ったのは、春宮様の嬉しそうだけれど悲しそうな表情だった。

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