学園1番の僕っ子美少女(♂)が催眠アプリを使って美少女と“えっち”するのは早すぎるっ!

🔰ドロミーズ☆魚住

プロローグ(1/2) ~催眠アプリは 持っているだけじゃ 意味がないぞ!  ちゃんと 起動しないとな!~

「……僕もあぁいう風に女の子と甘酸っぱい青春を送りたいなぁ」


 自分以外誰も居ない学校の屋上でそんな声が響き回る。


 その声の主はもちろん僕。

 言葉通り、僕が高校生活における願いというか欲望を率直に言葉にしたもので、今日あった文化祭が楽しかったのであろう男女の学生たちを見下ろしながら発した言葉には噓偽りなんて存在しない。彼女作りたい。でも無理だろうな。だって僕、男らしくないし。


「……はぁ」


 どうしようもない現実から目を逸らしたくて嘆息1つ。


 こんな風に言葉とため息を出すだけで実際に行動しないから彼女なんて出来る訳がない。というか彼女の作り方がとにかく分からない。どうやったら彼女なんて出来るというのだろう。


 学校終わりの放課後。

 それも立ち入り禁止の屋上で『下校時間になりましたので生徒の皆さんは下校してください』という放送アナウンスをBGMにして、1人でぼっちを堪能している僕の名前は天音あまね瀬織せおり


 どこにでも居る平凡な高校2年生であり、年齢イコール彼女居ない歴の寂しくもつまらない男であり――301


「……何でだよっ……! ねぇ、何でっ……! 僕、男なんだぞっ……!? どう見ても男の子でしょ……!?」


 友達に無理矢理に着せられたメイド服を怒りで揺らしながら、僕は憤りを隠せずにいられなかった。


 確かに僕はよくよく女の子に間違われる事が大半ではあるけれども、趣味は至って男性的……というか陰キャなオタクだ。


 実際、女の子みたいな顔と体型はしているけれども、顔と声と胸が良い美少女ヒロインがいっぱい出てくるアニメや漫画が、僕は大好きだ。


 多くの登場キャラクターを気に入っては僕の嫁だなんて言っていた時期は現在進行形で進んでいるし、ネットで二次創作していた事もあるし……その気になれば、僕が、その、女装をしてコスプレ……何でもない。


 とにもかくにも、現実で彼女なんて居なくても寂しくはないって思っていたのに、こうして文化祭をずっと1人で過ごしつつ、男子なのに学校1番の美少女になってしまい、群がる高校1年生の後輩と3年生の先輩たちに『僕、男の子なんですよ』って100回ぐらい言い訳していると、女の子とそういう恋愛コトをしたいんだっていう事に気づかされたのだ。


「……帰ろ……」


 こんなの、どうせ一瞬の気の迷い。


 すぐに帰ってパソコン開いて動画見てASMRでも聞けば忘れてしまうような、どうでもいいものに違いないだろうから……そう思って、スマホの画面を開くと、僕の数少ない友達にして親友からLAINEが来ていたではないか。


『ミスコン優勝おめでとう。マイラブリーエンジェル、セオリたん』


 なるほど、いつもの変態だ。

 ブロック或るいは既読スルーしたい気概をぐっと堪え、僕は唯一無二の親友に渋々返信する事にしてやった。


 というのも、僕はヤツのおかげでエロゲの存在を知れたので無碍には出来ない。


 見た目が女の子っぽい僕の内側から男の性欲を引きずり出して、僕にも女の子に性欲を向けて良いのだと首肯してくれた恩人だったりするのだ。


『セオリたんが今日のミスコン優勝したお祝いがてら、このアプリを贈呈してあげよう。実は趣味で作ったんだ、


「……は? 催眠アプリ?」


 そう名前の付けられたアプリのリンク先を、冗談か何かだと思った僕は指でなぞり、開く。


 どうせエロサイトにでも繋がっているのだろう――そんな僕の予想は外れ、1番最初に視界に入ってきたのはそのアプリについての使用方法の数々で。


「……馬鹿みたい」


 他人を自由自在に操れるアプリ。

 そんなものがこの現実に存在していたら世の中のバランスが崩れるであろう事は想像に難くない。


 確かに人間を好き勝手に出来る……そう考えるだけでも胸が躍らないと言ってしまえば嘘になる。


 けれども、そんなものは空想上の物語だからこそ存在するのであってこの世界にある訳がないのだ。


「……うーん」


 しかしながら、僕はやっぱり気になってしまった。

 当然、そのアプリが本当にそうなのか? という知的好奇心によるものだ。


 そんなモノ存在しうる訳がない。

 そう思えば思うほど、存在したらどうしよう? 

 そんな妄想が頭の隅から離れず――。


「……瀬織せおりくん?」


 いきなり背後から声をかけられた所為で慌てに慌てた僕は背後に視線を向ける。


 ――濡れたからすを思わせる肩まで届く流麗な黒髪。

 

 透き通るような白い肌に、遠目から見ても分かるぐらいの大きな睫毛まつげ


 モデルのように細身ですらりと伸びた細くしなやかな手足に、細く整った鼻梁と、芸術品を思わせる顔の輪郭線。


 上品さと初々しさを連想させ、思わず目を逸らしてしまうぐらいに犯罪的な桜色の薄い唇。


 色白なことも相まって、いかにもな深窓の令嬢といった雰囲気。


 そして、制服越しからでも分かるぐらいにたわわに実った2つの果実をなんと傲慢にも2つもぶら下げている垂れ目の、学園1番の美少女と言っても過言ではないぐらいの美少女同級生にして成績優秀な優等生、篠崎しのさき流歌るかが、立ち入り禁止の屋上の出入口に佇んでいて。


「――――」


 慌てていた僕が、うっかり、偶々、何とも都合よく、、彼女は虚ろな表情を浮かべてしまったではないか。


「し、篠崎さん……?」


「――――」


 だんまりだった。

 いつもであれば僕みたいな陰キャにも優しく接してくれる清楚な美少女がだんまりだった。


 そんな彼女に思わず出してはならない性欲が背筋に駆け巡って全身を震わせると同時に、この催眠アプリは本物なのかもしれないという期待が沸々と湧き上がる。


「……篠崎さん? あ、あの、その、名前、で呼んでもいいですか……?」


「……うん……いいよ……」


 エッッッッッロ。

 虚ろな表情で、淡々と答えてくれる篠崎さんってだけで、我が愚息が暴れ狂いそうになる。なってる。女装経験あるけど女性経験なくてごめんなさい。


「じゃ、じゃあ、流歌さん……?」


「……なぁに……?」


 ドクンと、僕の心臓は跳ねる。


 憧れの彼女が、クラスのマドンナである彼女が操られたような声で返事をする……それだけで僕は興奮の余りにその場で立ち尽くしてしまう。


 ――このアプリ、本物だ!?

 

 やはり、このアプリは本物だったらしい。

 我が親友よ、疑ってしまって誠にごめんなさい。


 でもこのアプリが胡散臭いから仕方ないだろう?

 

「本当に、催眠にかかってる?」


「……うん……」


「……パンツの色、何色?」


「……履いてない……」


「……まさかのノーパンっ……!? じゃあ下着は!? 何色!?」


「……それも履いてない……」


「なんて地球に優しい女の子なんだ篠崎さんは!?」


 あぁ、僕はこのアプリの効果を確認したその瞬間に良心の呵責というモノは捨てた!


 この世にはバレなければ犯罪じゃない、そんなどうしようもないぐらいにどうしようもない言葉もあるじゃないか!


 ……まぁ正直なところ、良心の呵責を捨てたと言っても、やっぱりあと一歩が踏み出せない。


 こんな時、催眠アプリを使うエロ漫画の主人公みたいに欲望に突っ走れる事が出来たのであればどれだけ楽なんだろう!


 くそぅ! 

 どうにも僕には男らしい欲望は人1倍ある癖に、度胸が欠けているような気がしてならない!


 だけど、僕は男だ!

 毎日毎日エロゲやエロASMRにお世話になる事で磨きに磨いた童貞を、この瞬間に捨てる! さらばだ童貞! 今まで世話になったな! もう二度と会いたくないからさっさと消え失せろ!


「るるるるるるる、流歌さんっ! 誠に申し訳ないのですが服を脱いではくださらないでしょうか!?」


「……いいよ……?」


 催眠下にある彼女は、逆らうという選択肢もないまま、僕の言葉に従った。


 ごくりと生唾を飲む僕の目の前で、彼女は制服を脱いでいく。


 1枚、また1枚と彼女を守っていた服が消えて、白磁を思わせるぐらいに綺麗な肌が見え――。


「――え」


 全裸姿になった彼女の体があまりにも綺麗すぎて、魅惑的すぎて、余りにも見慣れないモノすぎて……だけど、そんなモノがどうでもよくなってしまいそうになるぐらいのモノがそこにはあった。


 彼女の白くて、今すぐにでも折れてしまいそうなぐらいに細い手首。


 その箇所に、見るも無惨なぐらい、いくつもの線が……が無数に入っていた。


「なに、それ……?」


 思わず問うてしまった僕に向けて、催眠に掛かっている彼女は相変わらずの無表情で、どうでもいいと言いたげに告げる。


「……リストカット……それと、手錠の痕……」


「まさか、篠崎さんが屋上に来たのって」


「……ここから落ちて、ぐちゃぐちゃになって、消えたかったの……」

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