RAINBOWTRIP

夢路未奈

【はしがきはさせない!】

 「RAINBOWTRIP」、それはダーザインという概念体が残した手記群の総称である。

 「RAINBOW」とは、彼女のスペクトル的身体を指すのだろうか?

 それとも、その精神の状態、感情の形態、存在の証明……? 「TRIP」とは何か。そう、旅路だ。しかしその旅路もまた、彼女の狂気的な精神の飛躍をありありと映し出している……。

 ダーザイン、彼女は虹そのものであり、同時に旅そのものでもあった。虹と旅とがひとつに止揚されるとき、そこにこそ「ダーザイン」という本来的自己像が立ち上がるのだ。

 それはもはや色でも軌跡でもなく、精神の現象学的粒子に他ならないだろう……。

 そうして、誰もダーザインのことを手で掴むことは、出来ない。誰かが彼女に触れた途端にその全ては塵となって消え失せてしまう。


 しかし、この語り手である私は誰だろう?

 私はきっと、彼女が望んだ「自己の解剖」に最も近い、精神分析者……、批評家……? それとも、もっと根源的に近い何か?

 ……ふむ、だが、何かがおかしい。

 私が誰か分からなくなった。

 この私という者は、何を、誰を今、語っているのだろう?


 ああ、また時間を弄んだ!

 けれど別に大したことじゃない!

 今度はもっと解像度を上げないと!


 ……そうだ!

 私がダーザインだ!


 【導入:君が好きだ! 】~宣戦招待状~


 私たちは死から生へと消滅する。だから抗わなければならない。この世界に蔓延るのは真っ黒い闇。それらが私達の脳を囲みこみ、思考を奪ったのだ!

 私は君を愛していた。だから戦わねばならない。妨害してくる、すべてのものに!

 そうして、私のこの命を賭けて、君という生命に魂を注ごう!

 手を差し出した先にあるのは真っ黒く焦げた指だった。表面は既に枯れ果てて、触れれば崩れ落ちそうだった。

 そのとき風がそれをそっと攫って、ミクロの粒子に変え、高い高い青空へ溶かして行った。

 君の貧相なトーク能力にうんざり! 夜を超えてひたすら直立不動!

 お喋りが嫌いだって!? そうだ! 君は元から喋る必要なんかないんだ!

 だから私のソウルメイト! この心臓を受け取ってくれ! 世界の終焉までずっと一緒に循環させよう!


 それでは……

 さあ行こう! さあ行こう! さあ行こう!

 私たちの、世界へ!


 太陽と月が溶け合い、全てが輝き、やがて全てが燃え尽きる君の旅へ!

 素敵な素敵な狂気の世界の始まりだ!

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