第8話・危ない死霊使い……銀の片割れリンゴ大ピンチ

「銀の片割れリンゴ? あぁ、見たことあるよ」

 町のギルドで案内役の女性が、女魔王のニュウの質問にそう答えた。

「西の谷に行った時に、谷底に実っているのをチラッとだけ見た……ここから、そんなに遠くない」

「そうか、ありがとう」


 魔姫の所に戻ったニュウが案内役から聞いた話しを告げる。

 肉料理を食べていた魔姫が、口元に付いたソースをナプキンで拭き取って言った。

「いよいよかぁ、百合王国の誕生も迫ってきた」


 腐火 ゲロのゾンビメイドと、水萌ライムの人造姫が、抱き合って唇を重ねている光景に、ミセリア・ステラは口元を両手で押さて床にリバースする。

「うげぇぇぇ」

「ミセリア、リバースしたモノはちゃんと掃除しておいてね……さてと、ここまで来ると百合王国の誕生を邪魔したがっている者の妨害も激しくなるね」

 魔姫はギルドの壁に貼りつけられている、子狸 ライティの手配書を眺める。

「思い出した……子狸 ライティ、城にいた青年使用人、まさか魔法で子供の姿になって、盗賊のボスをやっていたなんて」


  ◇◇◇◇◇◇


 村外れの小麦小屋の中──正座をした、八目 アイと夢霧 サエが、目前に立つ子狸 ライティにすまなそうな顔をしていた。

 ライティが、吐き捨てるような口調で言った。

「どいつも、こいつも口ばかりだな……誰か銀の片割れリンゴを奪ってこれる、ヤツはいないのか」

 

 小屋の入り口から、女性の声が聞こえてきた。

「だったら、あたしが奪ってきてやろうか……ひゃひゃひゃ」

 首にドクロの首飾りをした、紫色の目をした死霊使いの少女が小屋に入ってきた。

奇魂きこん レイか……できるのか?」

「ゾンビと人造姫は、魂が一度抜けたようなモノだから、抜魂ばっこんは無理だけど……一緒にいる百合騎士なら、なんとか」

「毒星 魔姫から、抜魂するコトは?」

「殺されるぞ……魔呪使いを甘く見ていたら、その代わりあたしが、銀の片割れリンゴを奪ってきたら、ハーレムに加えてくれない」


「ハーレムに入って、どうするつもりだ」

「そりゃあ、もちろん手当たり次第に女の魂を抜いてやる……ひゃひゃひゃ」

「だから、嫌なんだよ……おまえをハーレムに加えるのは悩んでいるんだよ、この性格破綻者が! まぁ、銀の片割れリンゴを持ってきたら少しは考えてやってもいい」


  ◆◆◆◆◆◆


 谷へ降りる途中の平坦な道で休憩していた、魔姫一行は相変わらず休憩ついでの百合行為をしていた。

「あぁ、ニュウさま」

「ライム……可愛い、クチュ」

 濃厚で耽美な女同士のキスをして、体を触り合っている女魔王と人造姫から、目をそむけたメリメ・クエルエルは。

「ちょっとトイレへ」

 そう言い残して、離れた場所にある岩陰へと移動した。

 谷の絶壁に作られた道から、谷底を覗くと底の方に銀色に輝く物体が見えた。

(アレが銀の片割れリンゴ……ニュウが保管している、片方のリンゴと合わせると百合の王国が出現する……これで旅は終わりか)


 岩陰で用を足すために、しゃがんで下着を下ろしたメリメは、目の前の石の上に腰かけて、こちらを見ている少女に気づいて少し立ち上がる。

 首にドクロの首飾りをした、紫色の目をした死霊使い・奇魂 レイが言った。

「あたしのコトは気にしないで……続けて、続けて……オシッコするんでしょう……ひゃひゃひゃ」

「気にするよ! なにあんた?」

 レイの目が怪しい輝きを放つと、ミセリアは体を動かせなくなった。


 腰を屈めて腰の防冑を外して、下着を下ろした格好で、ミセリアは意識を持ったまま止まった。

「う、動けない」

 近づいてきたレイが、ミセリアの胸の防具を外してミセリアの胸を揉みはじめた。

「やめろぅ、胸触るな」

「ひゃひゃひゃ……いいねえ、その困り顔……このまま、胸を揉まれながらオシッコしちゃえ……排泄と一緒に魂を抜いてあげるから、オシッコの穴から」

 死霊使い、奇魂 レイは変態だった。


「やめてぇ、もう限界……あッ」

 ミセリアは排尿しながら、魂も一緒に抜けた。

 ミセリアの抜いた魂を持った、レイが魂の匂いを嗅ぐ。

「オシッコの臭い……これもまた一興、さあ操り人形になったミセリア・ステラ……仲間のところにもどって、銀の片割れリンゴを奪ってこい」

 魂が抜けたミセリアが、光が消えた目で返事をする。

「はい、命じられるままに」


  ◇◇◇◇◇◇


 仲間の所にもどったミセリアが、休憩しているニュウに言った。

「銀の片割れリンゴ見せて」

 乳牛 ニュウはなんの疑いも抱かずに、胸の谷間から銀の片割れリンゴを取り出す。

 次の瞬間、死霊使いに操られたミセリアは、銀の片割れリンゴを奪って脱兎のごとく、レイが待つ大岩の後ろに走ってリンゴをレイに渡す。


 片割れリンゴ受け取ったレイが、リンゴを掲げて叫ぶ。

「リンゴとったどーッ」

 次の瞬間──空中にエンジ色のジャージの腕が現れていて、レイが持っていたリンゴを奪った。

「あッ⁉」

 レイが驚いていると、大岩の後ろにやって来た魔姫たち一行の、ニュウの手の中に女神ロヴンのエンジ色ジャージの腕が片割れリンゴをニュウに渡した。

 リンゴを受け取ったニュウが言った。

「ご苦労……ロヴン」


 次の瞬間──世界が停止してモノクロになり、第四の壁越え女神ロヴンが引っ張り開いた空間から出てくると、読者に向かって語りかけた。

「こんな方法ありかってのはナシで……えっ、だったら。おまえが最初から谷底にある銀のリンゴを採ってくればいいだろうって……いやいやいや、それやったら西遊記で旅なしでガンダーラに到着するようなもんだから……では、続きをお楽しみください」

 ロヴンが出てきた空間を広げて、元の場所にもどると世界がカラーになって時間が動きはじめた。


 なにが起こったのか理解できない、レイに大剣を持ったニュウ……聖木の大槌を大地から引き抜いたライム……両腕の手甲に短剣を装着したゲロが迫る。


 魔姫が凄んだ口調でレイに言った。

「あたしの、ミセリアに手を出して無事で済むと思うなよ……ミセリアを自由にしてもいいのは、あたしだけだ」


 死霊使いは悲鳴を発した。

「ぎゃあぁぁぁ!」


  ◇◇◇◇◇◇


 ボコッボコッにして気絶した、死霊使いをロープで縛ってニュウが木の棒に、干し柿のように吊るして担いだ魔姫たち、一行はついに谷底の銀の片割れリンゴが実っている場所に到達した。


 ミセリアの口からは、魔姫がレイから奪った魂が半分出かった状態で、魔姫がミセリアの魂を引っ張ったり押し込んだりして遊んでいる、そのたびにミセリアの体はビクンッビクンッと性的な痙攣をした。

「あッ、あッ、あッ」

「ふふふ……ミセリア感じている、こんなプレイもあったなんて新発見」


 もぎ取った銀の片割れリンゴを持ってきた、ライムとゲロが魔姫たちに差し出す。

 リンゴを受け取った、魔姫が言った。

「銀の片割れリンゴの木が生えている場所は、瘴気しょうきが酷いから……ゾンビや人造人間じゃないと近づけない……まずは、採ってきた片割れリンゴをあたしたちが食べて真の百合に」


 魔姫たちがリンゴを一口かじって回す。

 魂が半分抜けたミセリアにも、魔姫は無理矢理リンゴを食べさせた。

「これで、ミセリアも抵抗なく百合行為を、受け入れられるようになった──さあ、ニュウが持っているリンゴと採ってきた、かじりかけのリンゴを合わせて百合の王国を誕生させるよ」


 リンゴを合わせて一つの百合リンゴにすると、リンゴから百合の波動が発せられて世界に広がった。

 波動が届いた地域の女性たちは、百合化した。

 さらに百合谷の中に、白百合の紋章がついた、百合の城が地面から生えてきた。

 魔姫が出現した西洋城を見上げると、歓喜に満ちた表情で言った。

「ついに、伝説の百合リリー城が現れた……ここから、あたしたちの新たな百合物語がはじまる」


  ◆◆◆◆◆◆


 盗賊の洞窟巣窟で、子狸 ライティは苦労して集めて奴隷調教した、奴隷ハーレムの女たちが百合行為をしている光景に愕然とした。

「んぁぁ……んんッ」

「はぁ……好き……あふッ」

 女同士で抱き合って、体を触り合って、唇を重ねているハーレムを見たライティは、ショックでその場に座り込んだ。


「オレの女たちが……オレの奴隷ハーレムが、百合ハーレムになっちまったあぁぁぁ!」


 魔姫たちの百合伝説は、その後も発展を続け……ついには、百合国家『リリー・メイデン』の建国にまで至った。

 

   ~了~

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事故死で転生したら……未経験の百合騎士でした~女騎士ミセリア・ステラと魔呪姫の逃亡旅~ 楠本恵士 @67853-_-

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