第39話 眠れん夜、カナメが来てもうたんや

夜更け。

ハルキはベッドに横たわりながら、天井を見つめていた。

目を閉じても眠気は訪れず、胸の奥に重たいものが残っている。

「……オレ、なんか間違ってへんやろか」

小さく呟いたそのとき、ノックの音がした。

「任谷さん、まだ起きていらっしゃいますか?」

カナメの声だった。

「……ああ、起きてる」

扉が静かに開き、カナメが入ってくる。

彼女は夜着のまま、柔らかな笑みを浮かべていた。


「眠れないのですね」

「まあな……」

ハルキは苦笑し、ベッドの端に腰を下ろした。

「なんか、申し訳なくてな」

「申し訳ない?」

カナメが首を傾げる。

「……先に恋人になった二人を、ないがしろにしてるみたいやって。

オレばっかり、次々と好意を受けて……なんか、不公平やろ」


カナメはしばらく黙ってハルキを見つめ、それから小さく笑った。

「任谷さん。あなたは“選ばれる側”ですわ。

それはこの時代の常識であり、誰も不満には思っていません。

むしろ、あなたが気に病むことこそ不自然ですの」

ハルキは視線を落とし、言葉を探した。

「……でも、ほんまに……オレが受け入れてええんか、わからへん」

その声には、迷いと躊躇がにじんでいた。


カナメはそっと近づき、ハルキの手を取った。

「ならば、もっと深くつながりましょう。

あなたが迷うのなら、私が確かめさせて差し上げます」

そう言って、彼女は静かにハルキの胸元へ手を伸ばす。

布地に触れる指先は、ためらいなく、しかし優しく。

ハルキは息を呑み、言葉を失った。

夜の静けさの中、二人の距離は自然に縮まっていく。


その夜、部屋の灯りは長く落ちることはなかった。

語り合い、寄り添い、そして――

互いの存在を確かめ合うように、深い時間を共有した。

夜明け前、ハルキはようやくまぶたを閉じた。

隣には、穏やかな寝息を立てるカナメの姿があった。

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