第38話 好意が集まってきて困惑したんや

非公開セッションを終えた翌日。

ハルキはソファに腰を下ろし、端末を手にしていた。

アオナとピナの真剣な言葉――「隣にいたい」。

その余韻がまだ胸に残っている。

「……なんや、最近やたらとアプローチが集中してへんか」

思わず漏らした声に、すぐミオが反応した。

「集中っていうか、完全に“殺到”だよね」

彼女は腕を組み、端末を覗き込む。

「セリナは結納金をにおわせるし、アオナとピナは“訪問したい”って言ってくるし。

この時代じゃ普通のことだけど、ハルくんからしたら驚くよね」

「……まあ、そらな」

ハルキは苦笑するしかなかった。


カナメがグラスを置き、ゆったりとした声で続ける。

「任谷さん。男女比の偏りゆえに、複数人から同時に好意を寄せられるのは珍しくありません。

ただし、これほど短期間に“形”を伴って動き出すのは、確かに目立ちますわね」

「……オレの感覚やと、もう文化祭の告白イベントみたいや」

ハルキは頭をかいた。

ミオが笑いながら肩をすくめる。

「でも、これは避けられない流れだよ。

セリナに続いて、アオナとピナも“直接会いたい”って言い出すのは当然。

むしろ、まだ他にも出てくるかもしれないし」

「……他にも?」

ハルキは思わず聞き返す。

「そう。ハルくんが“選ぶ”んじゃなくて、“選ばれる”立場だからね」

ミオはさらりと言った。


そのとき、端末が震えた。

新着メッセージ。送り主はアオナとピナの共有アカウント。

【アオナ&ピナ】

「ハルくん、近いうちに直接会えないかな?

配信の外で、ちゃんと話したいことがあるんだ」

「……来たか」

ハルキは小さく呟いた。


「やはり、動きましたわね」

カナメが微笑む。

「セリナ嬢に続き、彼女たちも“訪問”を仕掛けてきた。

任谷さん、これは受け入れるしかありませんわ」

「そうそう。断ったら逆に不自然だし」

ミオが軽く笑う。

「ここでは“複数人から好意を受ける”のは普通なんだから。

ハルくんが驚くのはわかるけど、周りから見たら自然な流れだよ」

「……自然、なんか」

ハルキは端末を見つめ、深く息を吐いた。

結局、短く返信を打つ。

【ハルキ】

「わかった。準備が整ったら、来てええよ」


送信ボタンを押した瞬間、胸の奥がざわついた。

未来社会では当たり前のこと。

けれど、ハルキにとっては――

ただただ、好意が一気に押し寄せてくることへの驚きと困惑しかなかった。

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