第33話 双子がひそかに相談していたんや

通話が切れ、画面が暗くなる。

部屋に静けさが戻ると、アオナは大きく伸びをしてから、ソファにどさりと腰を下ろした。

「……ねえ、ピナ。やっぱり、ハルくんって特別だよね」

「そうね」

ピナは端末を閉じ、指先で髪を整えながら答える。

「男性配信者というだけでも希少なのに……あの人は、ただ守られているだけじゃない。

自分で考えて、選んで、言葉にしている。そこが魅力的」

「でしょ? あの真っ直ぐさ、ずるいくらいだよ」

アオナは笑いながらも、頬がほんのり赤い。


「カナメさんとミオさんと“恋人”になったって聞いたときは驚いたけど……」

アオナは頬杖をつきながら視線を泳がせる。

「正直、うらやましいなって思っちゃった」

「……アオナ」

「だって、あんなふうに想いを向けられるなんて、なかなかないでしょ?

私たちだって人気配信者だけど、あの人みたいに心を動かしてくれる存在には出会えなかった」

ピナは少し黙り込み、やがて小さく息を吐いた。


「……狙うつもりなの?」

「ふふ、やっぱり気づいてた?」

アオナは悪戯っぽく笑う。

「もちろん、簡単じゃないよ。護衛二人もいるし、アキナまで“家族”になった。

でも……だからこそ、私たちも一歩踏み込まなきゃ、置いていかれる」

「……私は、焦る必要はないと思う」

ピナは冷静に言った。

「彼は誠実だから、無理に奪おうとすれば逆効果になる。

でも、私たちがそばにいて支え続ければ……いつか自然に、選んでくれるかもしれない」


「なるほどね。さすがピナ、冷静だなあ」

アオナは笑いながらも、目の奥に決意を宿していた。

「でもさ、考えてみて。私たちが彼と並んで配信したら、どれだけの人が熱狂すると思う?

“男性と双子配信者”ってだけで、もう伝説級の組み合わせだよ」

「……確かに。数字だけを見れば、そうね」

ピナもわずかに口元を緩める。

「でも、私は数字よりも……彼の隣に立ったとき、どう見えるかを大事にしたい」

「ふふ、やっぱり真面目だなあ」

アオナは肩をすくめた。


「じゃあ、方向性は違っても、気持ちは同じってことだね」

「……そうね。私たちも、任谷ハルキを大切に思ってる」

二人は視線を交わし、短く頷き合った。

その表情は、配信で見せる明るさや冷静さとは違う、ひそやかな熱を帯びていた。

――双子の心にも、確かに芽生えていた。

彼を“狙う”という、静かな決意が。

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