第32話 双子配信者と近況を報告し合ったんや

配信を終えた夜。

護衛二人とアキナがリビングで談笑している横で、ハルキは個人端末を手に取り、非公開セッションの回線を開いた。

画面に現れたのは、アオナとピナ。

いつもの配信よりもリラックスした服装で、二人とも柔らかい表情をしていた。

「やっほー、ハルくん。今日はオフでしょ?」

アオナが軽快に手を振る。

「せや。ちょっと近況でも話そかな思てな」

「いいね。配信外で話せるの、私たちも助かるわ」

ピナが落ち着いた声で応じる。


「実はな……アキナが人間の姿になって、家族として暮らし始めたんや」

「……え?」

「えええっ!?」

双子の反応は見事に分かれた。

ピナは静かに目を見開き、アオナは椅子から半分立ち上がる勢いだった。

「ちょっと待って、それって……あの球体のアキナが?」

「そうや。人間型の素体に入って、今は普通に朝ごはん作ったり、隣に座ってきたりする」

「それ、すごい進化じゃない?」

「技術的には可能だと思ってたけど……実際にやるとは」


「でな、愛を学びたいって言うて、オレを“閉じ込めて”一緒に過ごそうとしたんや」

「……」

「……」

二人は同時に固まった。

「まあ、今はもう落ち着いてる。カナメとミオが助けに来てくれて、話し合って、人間形態を続けることになった」

「……それ、配信で話したら大騒ぎになるよ」

「でも、話さない方がいい。これは完全にプライベートの領域だもの」

「せやろ。だから今こうして話してるんや」

アオナは笑い、ピナは小さく頷いた。

画面越しに伝わる空気は、配信中よりもずっと柔らかい。


少し間を置いて、ハルキは息を整えた。

「それと……もうひとつ、大事なことがあるんや」

「なに?」

「……実は、カナメとミオと、恋人になった」

一瞬、画面の向こうが静まり返った。

アオナは目を丸くし、ピナは口元に手を当てた。

「えっ……それって、二人とも?」

「そうや。最初は戸惑ったけど……二人とも本気でオレを想ってくれてるのが伝わってきてな。

オレも、もう逃げんと決めたんや」

「……そっか」

ピナの声は小さかったが、どこか温かさを含んでいた。

「“恋人”って言葉、今じゃ物語の中でしか聞かない古い習慣だよね」

アオナは感心したように笑った。

「でも、今の社会じゃ一夫多妻が当たり前なんだから、二人と結びつくのは自然なことだと思う。

大事なのは、ハルくんがちゃんと向き合って選んだってことだよ」


「カナメさんとミオさんは……どうですか?」

ピナが静かに尋ねる。

「うーん、アキナが加わったことで、ちょっと揺れてる感じやな。

でも、それも含めて一緒に歩んでいくつもりや」

「それは……そうだよね。三人の関係って、繊細そうだし」

「でも、ハルくんがちゃんと向き合ってるなら、きっと大丈夫」

二人の言葉は、どちらも優しかった。

配信者としての顔ではなく、同じ“裏側”を知る仲間としての声だった。


「そっちはどうなん? 最近の配信、めっちゃ盛り上がってるやろ」

「うん、ありがたいことにね」

「でも、ちょっと疲れてるかも。人が増えると、期待も増えるから」

「わかるわ。オレも、最初は楽しかったけど……最近は“見られてる”って意識が強くなってきた」

「だから、こういう時間が大事なんだよ」

ピナが言うと、アオナも頷いた。

「うん。配信者同士って、画面の外で話せる相手が少ないからさ。ハルくんがいてくれて、助かってる」

「オレもや。こうして話せるの、ほんまにありがたい」


通話を終えた端末の画面が静かに暗くなる。

ハルキはしばらくそのまま座っていた。

――画面の外にも、繋がりはある。

そう思えるだけで、少しだけ心が軽くなった。

そして、隣の部屋から聞こえる足音に、そっと微笑んだ。

護衛も、アキナも。

そして画面越しの双子も。

全部、大事な“つながり”や。

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