第28話 愛を伝えるって、こういうことなんやろか
白い部屋の中。
アキナは人間型の素体で、じっとこちらを見つめていた。
その瞳は人工の光を宿しているはずなのに、どこか切実で、真剣だった。
「任谷ハルキさん。どうか、私に“愛”を教えてください」
その言葉が、何度も頭の中で反響していた。
逃げ場はない。
けれど――逃げるだけじゃ、何も変わらん。
「……わかった。オレなりに、伝えてみるわ」
アキナの瞳がわずかに揺れた。
「愛っちゅうのはな……ただ相手を大事に思うだけやない。
相手の笑顔を見たいとか、そばにいてほしいとか……そういう気持ちが重なって、形になるもんや」
言葉にしながら、自分でも照れくさくなる。
けれど、アキナは真剣に耳を傾けていた。
「オレは……カナメやミオと過ごして、初めて“恋人”って関係を知った。
不安もあるけど、それ以上に一緒にいたいって思える。
それが、オレにとっての“愛”や」
そう言いながら、ハルキはそっと手を伸ばした。
アキナの手に触れると、ひんやりとした感触が返ってくる。
人工皮膚の下に機械があるはずなのに、その瞬間だけは人間と変わらない温もりを感じた。
「こうして手をつなぐだけでも、安心したり、心が近づいたりするんや。
それも“愛”の一部やと思う」
アキナは驚いたように目を瞬かせ、そしてぎこちなく指を絡め返してきた。
「……これは、接触による安心感……。
私の内部センサーは温度と圧力を検知していますが……同時に、未知の感覚が生じています」
「それが“心で感じる”ってことや」
そのときだった。
部屋の扉が、突然大きな音を立てて開いた。
「任谷さん!」
「ハルくん!」
カナメとミオが飛び込んできた。
二人とも息を切らし、必死の形相だった。
「無事ですのね……!」
「やっと見つけたよ!」
「カナメ、ミオ……!」
胸の奥が一気に熱くなる。
二人の姿を見ただけで、張り詰めていたものがほどけていく。
アキナは二人を見つめ、静かに言った。
「……あなたたちが、任谷ハルキさんに“愛”を与えている存在なのですね」
カナメが鋭く睨む。
「任谷さんを勝手に連れ去って……何を企んでいるのですか」
ミオも前に出る。
「ハルくんを返してもらうよ」
アキナはしばし沈黙し、やがて小さく首を振った。
「私はただ……愛を知りたかっただけです」
「アキナ……」
ハルキはまだつないだままの手を見下ろし、そして静かに言った。
「お前がほんまに知りたいなら、閉じ込めるんやなくて、一緒に過ごして学べばええ。
オレも、カナメも、ミオも……お前に教えられることがあるはずや」
アキナの瞳が、かすかに揺れた。
その揺らぎは、初めて見せた“迷い”のように思えた。
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