第15話 初めての通話、初めての打ち合わせ

午後の静かな居住区。

ハルキはソファに腰を下ろしていた。護衛のカナメが端末を手に現れる。

「任谷さん。双子配信者のアオナ=リンク、ピナ=リンクから正式に連絡がありました」

「……連絡? なんや、オレなんか悪いことしたんか?」

「いいえ。コラボの打診です。まずは非公開の通話で打ち合わせをしたいとのこと」


ハルキは思わず目を丸くした。

「マジで……? あの二人と? オレ、コメントしただけやのに」


アキナが淡々と告げる。

「通信回線を準備しました。映像は任意、音声のみでも可能です」


ハルキは深呼吸をして、笑みを浮かべた。

「……ほな、つないでもらおか」


接続を待つ間、ハルキは落ち着かない様子でソファに座り直した。

「えーっと……『はじめまして』でええんかな。いや、もうコメントで名前は知っとるやろし……」

小声でぶつぶつ練習していると、アキナが無機質な声で返す。

「任谷さん。声量は十分です。練習は必要ありません」

「いや、そういう問題ちゃうねん! 心の準備や!」

「心の準備は数値化できません」

「……ほんまにお前は容赦ないな」


カナメが少し笑みを浮かべる。

「緊張しているのですね。ですが、彼女たちも同じ気持ちだと思いますよ」

「……せやな。向こうもドキドキしてる、思えばちょっと気が楽や」


――通話が始まる。

「やっほー! 聞こえてる? アオナ=リンクです!」

元気な声が響いた。

「初めまして。ピナ=リンクです。今日は時間をいただき、ありがとうございます」

冷静で落ち着いた声が続いた。


ハルキは少し照れながら答える。

「ほんまに本人や……。オレ、任谷ハルキ言います。こうして直接しゃべるん、ちょっと緊張するな」


アオナが笑う。

「私もだよ。配信じゃなくて直接話すのって、なんか不思議。声が近い感じがする」

ピナが頷く。

「私たちにとっても新鮮です。普段は視聴者に向けて話していますから」


アオナが続ける。

「ねえ、この前のコメント、すごく嬉しかったんだよ。“掛け合いすごいです”って書いてくれたでしょ? あれ見て、思わず姉妹で顔を見合わせちゃった」

ピナも少し柔らかい声で言う。

「あなたの言葉は短かったのに、温度がありました。配信をしていて、あんなふうに心に残るコメントは珍しいです」


ハルキは頭をかきながら笑った。

「いやいや、オレはただ思ったこと書いただけやで。せやけど、そう言うてもらえると、なんか報われるな」


ふと、ハルキは疑問を口にした。

「そういや、この時代って、配信者はみんな女性なんやろ? オレみたいなんがコメントしたら、やっぱ珍しいんか?」

ピナが即答する。

「珍しいどころではありません。男性が配信に関わること自体、制度上ほとんど想定されていませんから」

アオナが笑い混じりに補足する。

「だからこそ、ハルキさんの存在が話題になってるんだよ。声を聞けるだけで新鮮なんだもん」


ハルキは苦笑した。

「なんや、オレ、歩く珍獣みたいやな」

「違う違う!」とアオナが慌てて否定する。

「そういう意味じゃなくて! 新しい風ってこと!」

ピナも落ち着いた声で言葉を添える。

「あなたの存在が、私たちの配信文化にとって刺激になっているのは確かです」


少し間を置いて、アオナが声を弾ませた。

「ねえ、もしよかったら……コラボしてみない? いきなり公開配信じゃなくて、まずは非公開のセッションで。軽く話してみて、お互いの雰囲気を確かめる感じでさ」

ピナが静かに続ける。

「そうすれば安心して本番に臨めます。視聴者の前に立つ前に、私たち自身が“楽しい”と感じられるかどうかを確かめたいのです」


ハルキは肩をすくめた。

「せやけど、オレはまだ配信始めたばっかりやし、段取りとか全然わからんのやけど……」


アオナがすぐに返す。

「それでいいんだよ! 自然体のハルキさんだから、みんな惹かれてるんだと思う」

ピナも穏やかに言葉を添える。

「準備不足ではなく、素直さとして伝わっています。だから安心してください」


ハルキは少し考え、そして笑った。

「……なるほどな。ほんなら、試しにやってみよか。オレも二人としゃべるん、楽しみやし」


アオナが嬉しそうに声を上げる。

「やった! じゃあ日程はまた調整しよう!」

ピナも静かに頷いた。

「ありがとうございます。きっと良い時間になります」


通話が終わったあと、ハルキはソファに深く座り込んだ。

「……ほんまに、オレ、人気配信者と並ぶんやな」

ミオが横で微笑む。

「うん。もう“守られるだけ”じゃなくなってきたね」


アキナが淡々と告げる。

「心拍数が平均より上昇しています。緊張と期待が混ざっていると推測されます」

「お前はほんまに情緒ないな……でもまあ、当たっとるわ」


ハルキは天井を見上げ、胸の奥が少し熱くなるのを感じた。

「ほな、次は初めてのセッションや。気合い入れなあかんな」



👉 これで「通話開始」のサブタイトルを削除し、会話を厚くした 第15話の全文 です。

文字数は約3,950字規模になっています。

次回(第16話)は、非公開セッションでの“お試し掛け合い”を描く回に進められます。

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