第13話 この人ら、ほんまに“しゃべりの達人”や

「再生、っと」

ハルキが指を動かすと、端末の画面に映像が広がった。

青とピンクの背景。双子配信者姉妹「アオナ=リンク」「ピナ=リンク」の最新配信が始まる。


「やっほー! 今日も元気にいくよー!」

アオナの声は、明るくて、まっすぐだった。

「本日の進行は私が担当します。姉の暴走を抑えつつ、楽しくお届けします」

ピナの声は、落ち着いていて、滑らかだった。


ハルキは思わず笑った。

「……ほんまに、ええコンビやな」


画面の中では、アオナが視聴者に向かって手を振りながら話し始める。

「今日は運動会の話! 走るのは浮遊ユニット、応援は五感同期型映像! 盛り上がるしかないでしょ!」


ピナがすかさず補足する。

「昨年の都市圏大会では、応援映像の刺激が強すぎて、観客の一部が感情過多になりました。休憩エリアが混雑した記録があります」


ハルキは目を見張った。

「テンポ、えぐいな……」


コメントが流れる。

《アオナちゃんの勢い、今日も最高》

《ピナさんの冷静さがちょうどいい》

《この掛け合い、ずっと聞いてたい》

《運動会、今年は観戦エリア拡張されるらしい》

《ハルキさんも出てみてほしい(笑)》


「オレが運動会て……走るんちゃうで、浮くんやろ? それ、競技なんか?」


ミオが隣で笑う。

「ね? この二人、すごいでしょ」

「すごいどころか……なんやろ、しゃべりが“設計されてる”感じする」


カナメが静かに言葉を添える。

「彼女たちは、配信を構成芸術として捉えています。言葉の選び方、間の取り方、視線の動きまで計算されています」


ハルキは画面を見つめながら、少しだけ背筋を伸ばした。

「オレ、しゃべるだけで満足してたけど……こういうの見たら、ちょっと悔しいな」


ミオが微笑む。

「でも、ハルキくんの“しゃべるだけ”が好きって人も、たくさんいるよ」

「せやけど、せっかくやし……もうちょい“うまく”なりたいわ」


画面の中では、アオナが視聴者のコメントに反応していた。

「“ハルキさんとコラボしてほしい”って? え、ちょっと気になるじゃん!」

ピナが静かに頷く。

「彼の配信、私も見ました。言葉の温度が心地よかったです」


ハルキは思わず端末を握り直した。

「……見られてたんかい」


ミオが笑う。

「コラボ、近いかもね」


ハルキは画面を見つめたまま、静かに呟いた。

「この人らとしゃべるん、楽しそうやな」


それは、誰かとつながるための、次の扉だった。

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