第11話 ランキングに名前が出てた件
「こんばんは。任谷ハルキです。今日もぼちぼち、しゃべっていきます」
三度目の配信。
ハルキは、前回より少しだけ落ち着いた声で話し始めた。
画面の中のアバターは、ゆるく笑っている。
「今日はな、未来の食パン事情について語ろか。いや、ほんまに“食パン”って言うてええんか、これ」
コメントが流れ始める。
《正式名称は“栄養穀物プレート”です》
《でも見た目は完全に食パンですよね》
《ハルキさんの呼び方のほうが好き》
《未来の食パン、タグ化されてます》
《うちのはチーズ風味にしてます》
「チーズ風味て……それ、もうピザやん」
「栄養穀物プレート言われても、朝からテンション上がらんやろ」
画面の下に、視聴者数が表示されていた。
「……あれ? なんか、増えてへん?」
ミオが端末を覗き込みながら言った。
「うん。今、ランキングの“急上昇”に入ってるよ」
「急上昇て……オレ、なんもしてへんで?」
「それがいいんだって。しゃべってるだけなのに、みんなが聞いてる」
ハルキは少しだけ照れたように笑った。
「ほな、もうちょいしゃべろか。未来の朝食って、なんか“効率”って感じやな。味はええけど、ちょっと寂しい気ぃせえへん?」
コメントが流れる。
《それ、すごくわかります》
《効率優先で、感情が置いてかれることあります》
《ハルキさんの“寂しい”って言葉、響きます》
《朝食に“気持ち”を求めるの、新鮮です》
《うちでは花を添えてます。気持ちのために》
「花を添えるて……ええな、それ。未来の朝に、ちょっと“余白”がある感じ」
ハルキは画面を見ながら、少しだけ真面目な顔になる。
「オレな、こっち来てからずっと思ってるんやけど……便利すぎると、なんか“選ぶ楽しみ”が減る気ぃするんよ」
コメントがまた流れる。
《それ、未来社会の課題かも》
《選ぶって、感情の表現ですよね》
《ハルキさんの視点、ほんとに貴重です》
《もっと聞きたいです》
《次は“未来の選択肢”について語ってほしい》
「“未来の選択肢”て……なんか哲学っぽいな」
「オレ、ただの大学生やで? しかも200年前の」
画面の中のアバターが、少しだけ肩をすくめるように動いた。
ハルキは笑いながら言った。
「まあええか。しゃべってるうちに、なんか見えてくるかもしれんしな」
配信は、予定よりも長く続いた。
画面の向こうには、確かに誰かがいた。
そしてその夜、SNS「ユニットリンク」では、タグが静かに増えていた。
《#未来の食パン》
《#ハルキの朝話》
《#選ぶって大事》
《#男性の声が心地いい》
《#急上昇配信者》
ハルキはまだ知らない。
その名前が、ランキングの一覧に載っていたことを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます