第3話 未来の説明会

翌日、ハルキは再び医療施設に呼び出された。

昨日は目覚めたばかりで、まともに状況を理解する余裕もなかった。

今日は「オリエンテーション」と称して、この時代の仕組みを説明してくれるらしい。

「オリエンテーションて……大学の新入生かオレは」

軽口を叩きながらも、胸の奥は少し緊張していた。


案内されたのは、白を基調とした広いホールだった。壁は柔らかく光を放ち、天井は高く、どこか教会のような荘厳さがある。

中央には円形のテーブルが置かれ、その周囲に椅子が並んでいた。

「どうぞ、おかけください」

昨日の医師が微笑む。

彼女は端末を操作し、壁面に映像を映し出した。


「まずは人口比についてご説明します」

映し出されたのは、棒グラフだった。

「現在、男女比は一対百です。男性は極めて希少であり、社会全体で保護する対象となっています」

「……一対百? え、マジで?」

ハルキは思わず声を上げた。

「そら、昨日から男の人見かけへんと思ったけど……ほんまにオレだけやん」

「正確には、都市ごとに数名ずつ存在しています。

ただし、外を自由に歩くことはありません」

「なるほどな……レアキャラどころか、伝説のポケモン扱いやん」


医師は苦笑しつつ、説明を続けた。

「社会の仕組みも大きく変わりました。女性が社会の表舞台を担い、男性は家庭内で守られる立場です」

「守られる、ねえ……」

「ええ。外出は基本的に制限されますが、生活に必要なものはすべて提供されます。食事、衣服、娯楽、医療、すべてが保証されています」

「……ニートの理想郷みたいやな」

「ただし、義務もあります」

医師の声が少しだけ硬くなる。

「男性は定期的に精子を提供しなければなりません。これは社会を維持するための最も重要な役割です」

「……あー、なるほど。そらそうなるわな」

ハルキは頭をかきながら苦笑した。

「まあ、命の恩人やし、社会貢献くらいはせなあかんか」


映像は次々と切り替わる。

整然とした街並み、緑豊かな公園、静かに浮遊する乗り物。

「都市は清潔さと秩序を重視して設計されています。人々は効率的に働き、調和を守ることを大切にしています」

「ふーん……なんか、テーマパークみたいやな。ゴミ一つ落ちてへん」

「実際、清掃は自動化されています。空気も常に浄化されており、感染症の心配もありません」

「へえ……二百年でここまで変わるんか」


説明はさらに続いた。

「結婚制度についても変化があります。一夫多妻制が一般的です。男性は希少であるため、複数の女性と家庭を築くことが自然とされています」

「……一夫多妻、ねえ」

ハルキは苦笑した。

「オレ、彼女どころか告白すらまともにしたことないんやけど。いきなりそんなハーレム仕様にされても困るで」

「心配はいりません。すべては社会が調整します」

「調整って……なんか婚活アプリの未来版みたいやな」


説明会は淡々と進んだが、ハルキの頭の中は情報でいっぱいだった。

男女比の偏り。守られる立場。義務としての精子提供。一夫多妻制。

どれも現代の常識からすれば信じられないことばかりだ。

だが、不思議と絶望感はなかった。

「……まあ、なんとかなるやろ」

そうつぶやいて、ハルキは天井を見上げた。

未来の光が、彼を優しく包んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る