1 NPCは、巡る

「では、□□さま。ご健闘を」


 きわめて無理やりほほえむわたしのことなど無視して、ルンルンしながらおとこのところへ出掛けるヒロイン。

 緩くうねったかがやくピンクの髪がフワフワしている。


 見慣れた、外見。

 というか、同じだし……毎回。


 ヒロイン、瑠香るか――正確には、名はない。中の人が、名付ける。


 にしても、ピンク髪。

 デザインしたおバカは三国志であるのを失念したのか? そのくせ、ころもは中華風であるのはどういうことだというのか。

 解せない。


 まあ、かわいい容貌には似合っているから問題ないとはいえ……。


 本当、かわいい。モブとは、違う。


 あれならイケメン攻略対象ともばっちり釣り合う寸法。さすがだ。たしかに、双方寄り添うスチルはたいへんよいものばかりだった。

 カップル、絵になる。


 かくして、今回の彼女はハピエン確定するため街停がいていへと出掛けた。

 すべては、順調。今回の彼女に選ばれた馬謖ばしょくの絶望的な窮地は潰されて、ふたりでイチャイチャきわめて真っ直ぐクリアだろう。


 よかった。師匠に斬られる弟子が生まれる残念な結末はないのだ。


 めでたし、めでたし。


 それにて、終了。

 彼女とは、おさらば。わたしも、終わりだ。


 但し、わたしのモブな人生が終了するわけではないのがミソ。


 わたしは、巡る。

 たいして激変ない歴史乙女ゲームに飽き飽きしながら。出会った中の人にゲームのクリアをうながしつづける。

 来る日も、来る日も。


 ……本当、どういう仕組みかいまなお寸毫たりともわからないし、というか、元来、ユーザーみんなでアバター使い回す作品でもないのに、いや、そもそも、オンゲーでもなんでもない独立した作品だというのに、現在、どうやらすべては川の如く一つところへ集まっていて、ひいては、ゲームとゲームが謎のちからで繋がっているのだろう、意中の男性とハピエンして各人の恋愛が終了するたび、中の人が次の人につぎつぎ入れ替わっていくシステム。


 そう。ふわふわピンクがかわいいヒロイン瑠香アバター、ご用達の歴女みんなでつぎつぎ容赦なく使い回す。


 使い倒す。


 きわめて、おかしい。絶対、おかしい。

 なにそれ。


 ところが、この状況にはもっとずっとおかしなところが存在する。


 何と、これ、わたしの前世の記憶が戻る前に発生しているのだから――わたしがうつわに転生する前に始まっているのだから。


 はて、一体、NPCのむすめはいつからグルグル円環しているのか? 


 ゲームはいつからそんなことになっちゃっているのか? それとも、やっぱり何者かがゲームを再現した箱庭だというのか? それこそ、真相? 

 では、左慈の一件もそういうところへ根差しているものだと……? 


 ……いや、どうだか。


 そう、前世の記憶があってもそんなのまったくわからないが。


 どうあれ、ともかく、どこかの世界の舞台をみんなで貸し借りしている状況。但し、中の人はふつうに個々人のゲームを満喫している認識……そういう、感じ。


 グルグルしながらわたしはそんなふうに結論している。


 勿論、謎すぎる。謎ばかり。

 なんなの? 

 ハテナが、いっぱい。


 そもそも、グルグルしながら存在していられるわたしがなんなの……。


 ので、一応、気にならないとは言えないおのれもどこかにあったが――けれども、何もかも何ひとつかんがえたくないからどうでもいい。まじめに悩んでもしょうがないならいっさい悩むまい。


 ただ、つづける。空しさが、募っても。なんでも……。


「さて――」

 次は、どこだか。

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