第5話 逃亡者の告白
焚き火の炎が揺らめく中、少女――リナは俯いていた。
腕の傷は布で応急処置を施したものの、その表情にはまだ怯えが残っている。
「……無理に話さなくてもいい」
俺がそう告げると、リナはかぶりを振った。
「いえ……あなたには助けていただいたから。真実を話すべきだと思うの」
炎に照らされる彼女の瞳は、怯えの奥に強い意志を宿していた。
「私は、王都の神殿に仕える《聖印の巫女》でした」
その言葉に、思わず息をのむ。
聖印の巫女――王都でも限られた者しか持たぬ特別な地位。
人々に祝福を授ける、神聖視された存在だ。
「でも、私は“無能”だと言われ、神殿からも追われたの」
「……っ!」
思わず拳を握る。自分と同じだ。
俺も仲間から「無能」と切り捨てられ、追放された。
「巫女としての力が足りない、と決めつけられて……。
それでも私は信じてる。必ず、この身に宿る本当の力があるって」
リナは震える声で、けれど確かな決意を告げた。
俺は黙って剣を見つめ、そして彼女の瞳をまっすぐに見返す。
「なら……探せばいい。俺も同じだ。無能だと捨てられたが、こうして力を掴んだ。
お前も必ず、自分の本当の力を見つけられるはずだ」
リナの目に、涙が浮かんだ。
「……ありがとう」
その瞬間、俺の胸の奥に確かなものが灯った。
同じ痛みを抱える者と出会い、共に進む道が始まったのだ。
だが、暗い森の奥では黒い影が蠢き、二人の旅路を狙うように静かに迫っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます