第5話 逃亡者の告白

 焚き火の炎が揺らめく中、少女――リナは俯いていた。

 腕の傷は布で応急処置を施したものの、その表情にはまだ怯えが残っている。


 「……無理に話さなくてもいい」

 俺がそう告げると、リナはかぶりを振った。


 「いえ……あなたには助けていただいたから。真実を話すべきだと思うの」


 炎に照らされる彼女の瞳は、怯えの奥に強い意志を宿していた。


 「私は、王都の神殿に仕える《聖印の巫女》でした」


 その言葉に、思わず息をのむ。

 聖印の巫女――王都でも限られた者しか持たぬ特別な地位。

 人々に祝福を授ける、神聖視された存在だ。


 「でも、私は“無能”だと言われ、神殿からも追われたの」

 「……っ!」


 思わず拳を握る。自分と同じだ。

 俺も仲間から「無能」と切り捨てられ、追放された。


 「巫女としての力が足りない、と決めつけられて……。

 それでも私は信じてる。必ず、この身に宿る本当の力があるって」


 リナは震える声で、けれど確かな決意を告げた。


 俺は黙って剣を見つめ、そして彼女の瞳をまっすぐに見返す。

 「なら……探せばいい。俺も同じだ。無能だと捨てられたが、こうして力を掴んだ。

 お前も必ず、自分の本当の力を見つけられるはずだ」


 リナの目に、涙が浮かんだ。

 「……ありがとう」


 その瞬間、俺の胸の奥に確かなものが灯った。

 同じ痛みを抱える者と出会い、共に進む道が始まったのだ。


 だが、暗い森の奥では黒い影が蠢き、二人の旅路を狙うように静かに迫っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る