Chapter.2 今回のテーマ
アンカールは集まったゲストたちとコメント欄の機体が最高潮に達したのを見計らい厳かな口調で告げた。
「さて今宵我々が踏み入る深淵。そのテーマは十五年前に起きたカルト教団の集団自殺事件、そしてその忌まわしき教団跡地でまるで呪いの連鎖のように続く一連の奇怪な事件についてだ」
その名が告げられた瞬間、コメント欄は瞬く間に同じような反応で埋め尽くされた。
『うわ、やっぱりきたか!』 『あの有名なやつ!』 『オカルト番組で絶対取り上げられるやつじゃん』 『待ってました!一番好きな事件!』 『怖いやつだ…』
「フフ…やはり知っている者が多いようだね」とアンカールは満足げに頷く。「様々なメディアやネットで、未解決事件として、あるいはオカルトとして、散々語り尽くされてきたテーマだ。もはや視聴者の中に知らない者はいないかもしれないが、まずは改めて事件の概要を紹介し、その後、個別の事象について詳細を掘り下げ、皆で議論するという形で進めていこうと思う」
ゲストたちもそれぞれ頷き、コメント欄も肯定的な言葉で流れていく。
『了解!』 『わかった』 『進行助かる』 『初心者にも優しいアンカールさん好き』
「ではまずはすべての元凶となったカルト教団集団自殺事件からだ。」
アンカールの声のトーンが一段低くなり、場の空気が引き締まる。
「当時新興のカルト教団として世間を騒がせていた閉鎖的な集団があった。
事件が起きたのは今から十五年前、教団の創始者であり指導者でもあった教祖の女性がある日の夜、突発的に信者たちを集めて服毒自殺を図った」
アンカールは、そこで一度言葉を切った。視聴者が固唾を飲んで見守っているのが、画面越しに伝わってくるかのようだ。
「この異常な事態が外部に発覚したのは、実に奇妙な偶然からだった。信者の一人が、飲んだ毒の効き目がたまたま弱く、死を免れたんだ。彼は朦朧とする意識の中、最後の力を振り絞って警察に通報した。駆け付けた警察が目にしたのは、教団施設内で折り重なるようにして絶命している信者たちの姿だったという」
コメント欄には『ひっ…』『絵面がやばい』といった短い悲鳴が流れる。
「最終的に、教祖を含めた、その場にいた教団構成員34名中、26名が死亡。生存者は、先ほどの通報者と、事件当夜にたまたま所用で教団施設を離れていた信者の、わずか数名だった。当然ながら、この凄惨な事件をきっかけにして教団は解散。一つの教団が、文字通り消滅した日となったわけだ」
アンカールはそこで一度、静かに息を吸い込んだ。まるでこれから語る内容の重さを、視聴者と共有するかのように。
「そう、一つの教団が消滅した。だが、物語はそこでは終わらなかった。いや、むしろ、ここからが本番だったのかもしれない。この凄惨な集団自殺をきっかけにして、カルト教団、そしてその忌まわしき跡地に関わる、一連の奇妙な事件が幕を開けることになるんだ」
コメント欄に緊張が走る。『ゴクリ…』『本題きたな』といった書き込みが、ゆっくりと流れていく。
「最初の事件が起きたのは、教団集団自殺事件からちょうど五年が経過した頃だった」 アンカールは、記憶の糸をたぐるように、少しだけ目を伏せた。 「とあるフリージャーナリストが行方不明となる」
「そのジャーナリストはその教団を極めて危険なカルト教団として執拗に追跡紫蘇の危険性を告発する記事をいくつも世に出していた、気骨あるジャーナリストだった」
そのルポ見たことあるという反応。テレビとかで紹介されていたなというコメントが流れる。
「教団があの集団自殺によって事実上壊滅した後彼は「自身のジャーナリストとしての使命は終わった」と語り第一線を引くことになる。そのあとは自身の経験をまとめた著書の執筆や講演会に登壇するなど穏やかな活動へと映っていたはずだった」
アンカールの声に、不穏な響きが混じる。 「そう、誰もがそう思っていた。危険な取材から離れ、平穏な日々を送っていると。…そんな彼が、ある日、何の前触れもなく、忽然と姿を消すことになるんだ」
アンカールは視聴者がジャーナリストの失踪という謎を咀嚼するのを待つかのように僅かな間をおいた。そしてさらに深い謎を覗き込むように話を続ける。
「彼の失踪は大きな謎として人々の記憶に刻まれた。だが、本当の恐怖はまだ始まったばかりだった。彼の失踪から、さらに三年後。この一連の事件に、初めて『オカルト』という言葉が本格的に結びつけられる、決定的な事件が起こる」
アンカールの声には、確信めいた響きがあった。まるで、ここが物語の大きな転換点だとでも言うように。
「教団の本拠地があった、あの町の地元女性議員が、有力な支援者でもあった地元の開発会社社長を、何を思ったか、あの教団の本拠地跡地で刺殺したんだ」
コメント欄に『えっ』『なんで!?』という驚きの声が溢れる。政治家による殺人というだけでも衝撃的だが、事件はそれだけでは終わらなかった。
「そして、犯行後の彼女の足取りは途絶えた。警察が大規模な捜索を行った数日後、彼女は…町を流れる川で、水死体として発見された。これが事故だったのか、それとも罪の意識に苛まれての自殺だったのか。今となっては誰にも分からない」
アンカールは淡々と事実を語る。その平坦な口調が、かえって事件の異常性を際立たせていた。
「当然、警察は二人の間にあったであろう動機を徹底的に捜査した。金銭トラブル、男女間の怨恨、政治的な対立。あらゆる可能性が洗い出された。だが、奇妙なことに、殺人にまで発展するような明確な動機が、何一つ見当たらなかったんだ」
そこでアンカールは、ふっと息を漏らした。 「論理で説明できない空白が生まれると、人々は別の『何か』でその隙間を埋めようとする。そう…この不可解な事件をきっかけに、世間ではこう囁かれるようになったんだ。『これは、あの教団の亡霊の仕業なのではないか』と。『土地に染み付いた呪いだ』『教祖の祟りだ』とね」
アンカールは、まるでその町の淀んだ空気を吸い込んだかのように、重々しく息を吐いた。 「祟りだ、呪いだ、と人々が囁き合う。そんな不気味な噂が、もはや単なるゴシップでは済まされないような妙な現実味を帯び始めた頃…事件は再び動く。女性議員の謎の死から、さらに一年後のことだ」
アンカールの目が、画面の向こうの視聴者を射抜くように細められる。「長年、その行方が誰も掴めなかった、行方不明となったジャーナリストの遺体が発見されたんだ」
その一言に、コメント欄が激しく揺れる。
『え!?』 『繋がった…』
「そうだ。そして奇妙なのは、その発見された状態だ」とアンカールは続ける。「彼の亡骸は、完全に白骨化した状態で、あの忌まわしき教団の跡地、その廃墟の中で見つかった。所持していた財布に残っていた運転免許証、そして残された歯の治療痕との照合により、その身元は間違いなく行方不明となっていたジャーナリスト本人であると断定された」
アンカールは、そこで一度言葉を区切ると、この事件の最も不可解な点を、ゆっくりと、そしてはっきりと告げた。
「警察の鑑識の結果、さらに異様な事実が判明する。彼の白骨に付着していた土や微生物の分析から、彼は殺害後、長らく土の中に埋められていた可能性が高い、と。…つまり、何者かが、一度埋めた彼の遺体をわざわざ掘り返し、廃墟の中に見せつけるように放置したということになる」
コメント欄は『こわい』『意味がわからない』『なんのために?』という言葉で埋め尽くされた。
「なぜ犯人はそんなことをしたのか。これは警察への挑戦か。それとも、何かオカルト的な儀式の一部だったのか。そのあまりに奇妙な状況は、当時、様々な憶測を呼んだ。だが、結局のところ、真実は誰にもわからないままなんだ」
アンカールは、一連の事件の年表を語り終えると、重苦しくなった場の空気を一旦リセットするように、ゆっくりと息を吐いた。 「…以上が、教団跡地の廃墟を中心に渦巻く、一連の奇怪な事件の概要だ」
彼女は画面の向こうにいるであろう、固唾を飲んで聞き入る視聴者たち、そして沈黙しているゲストたちに、静かに、しかし力強く問いかける。 「カルト教団の集団自殺。ジャーナリストの失踪と、そのあまりに不可解な遺体の発見。動機不明の殺人事件と、それに続く謎の死」
アンカールは、それぞれの事件を指で数えるような仕草を見せた。 「これら一見バラバラに見える事件には、果たして何かしらの繋がりがあるのか。そして、もし繋がりがあるのだとすれば、それは…人為的なものなのか。それとも、我々の理解を超えた、超常的な『何か』が働いているのか」
ミティがルックが構えるカメラに向かって言う。
「私たちが今いるのがその教団がいた建物がある山の入り口ってわけ」
そしてその建物があるだろう場所を指さすと
「じゃぁ、早速let's goよ!」
といい、スマートフォンのライトを付け、山の中へと足を進めそれをカメラが追っていく。
その様子を見たアンカールは挑戦的な笑みを浮かべ言った
「では今宵は、この底なしの謎について、皆で議論していこうと思う」
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