TRUE END REQIEM
ニケ
prologue : 悪魔の子
1431年。
神聖ローマ帝国の辺境に位置する
ワラキア公国は、血と裏切りに満ちた大地であった。
幾世代にもわたり、
ハンガリー王国とオスマン帝国という二つの大国に挟まれ、存亡を賭けた戦争が繰り返されてきた。
その年、
トゥルゴヴィシュテのヴランシュ城で、
一人の男児が産声を上げた。
父はヴラド2世カーティス――竜の騎士団(オルデン・デラゴニス)の騎士であり、
時に「ヴラド・ドラクル」と呼ばれた男。 母はカーミラと伝えられるが、
ハンガリー貴族の落胤であったと言われる。
赤子の名はヴラド。
けれども後世の記録や伝承では、
彼をしばしば別の名で呼ぶ。
「フォリー」――狂気を宿す者。 あるいは「フリークス」――悪魔の子。
生まれてすぐのこと、
助産婦たちは口々に囁いたという。
「この子の瞳は、血のように赤く、
雪のように冷たい」と。
揺らめく燭台の下、
その幼子の瞳は冬の氷片を閉じ込めたかのように輝き、
母の胸に抱かれても決して泣きやまなかった。
村人たちは恐れ、
こう呼んだ。
――冬神が人の子に宿ったのだ。
父カーティスは、
己の子を「竜の子」として誇り高く育てようとした。 竜の紋章を刻んだ旗をかざし、
騎士団の誓いを語り聞かせた。
けれど幼きフォリーの胸の奥には、
旗の赤よりも深い暗さと、
竜の炎よりも冷たい氷が巣くっていた。
ある夜、
乳母は幼子の眠りを覗き見て、
恐怖に震えたという。
夢の中で彼は、
まだ言葉を知らぬはずなのに、 「串刺しにせよ」「裏切り者を穿て」と呻く声をあげていた、と。
まるで未来の幻影を、
その小さな口で語っているかのように。
だが伝説によれば、
この時すでに、後に「串刺し公」と呼ばれる運命は定められていた。
フォリーの幼少期に関する記録は少ない。
しかし彼が生まれ落ちたその瞬間から、
ワラキアの空気は恐ろしく変貌したと、
民草は囁いた。
吹き荒れる冬の嵐はより鋭く、
飢饉はより深くなり、
狼たちは王都の村人を襲った。
「竜の子が、神の秩序を揺るがしたのだ」
と恐れられ、
同時に
「この王子こそ、やがて国を救う」
と期待もされた。
英雄か、破滅か。
まだ揺籠の中の赤子にして、
すでに両極の運命を背負っていた。
――こうして、後に
「冬神フリークス」
「吸血鬼ドラキュラ」と呼ばれる王の物語は
始まった。
民草よ。
刮目せよ!
後世に遺る英雄譚の 始まり である。
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