王殺しジャウハラと看守サフラ 〜七つの晩餐〜

ジャック(JTW)🐱🐾

一日目:黒パンと豆のスープ

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 石造りの牢獄に、静かな夜が訪れる。

 外の世界では、秋の風が街路を吹き抜け、落ち葉を舞い上げている頃だろう。だが、この厚い石壁に囲まれた空間には、季節の気配すら届かない。冷たい空気が肌を刺し、灯りの乏しい廊下には、足音だけが響いていた。


 茶髪の大柄な看守が重々しい鉄の扉を開けると、細身の死刑囚はすでにベッドに腰掛けて、薄く微笑んでいた。

 その笑みには、諦めとも、悟りともつかぬ静けさがあった。

 鉄の鎖と枷が両手両足に嵌っており、彼は逃げ出すことができない。だが、その姿には、囚われの身であることへの屈辱も、恐れも見えなかった。


「今夜のディナーは?」


 看守は重々しく問いかけた。

 王殺しの大罪人であっても、死刑執行前の一週間は、好きなディナーを注文できる習わしになっている。

 それは、古くから続く王国のしきたりであり、これから死に向かうものに対して最後の敬意を払うための儀礼でもあった。


 黒髪の男は沈黙したあと、低い声で短く答える。


「……黒パンと豆のスープ」


 看守は少し驚いた。

 王を殺した大罪人が、最初の晩に選んだのは、質素で粗末な食事だった。

 豪華な肉料理でも、甘い菓子でもない。

 まるで、何かを思い出すように目を細めている。その赤い瞳の奥には、遠い過去の光景がちらついているようだった。


「わかりました」


 看守が告げると、男はうなずいた。 その仕草は、穏やかだった。


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 やがて、黒パンとスープが運ばれ、男はゆっくりと口に運ぶ。

 豆の香りが鼻をくすぐり、黒パンの硬さが歯に響く。

 その味は、遠い記憶を呼び起こす。

 温かいスープの湯気が立ちのぼるたび、彼の瞳は少し潤んでいた。


「……昔、戦場で食べたんだ。寒い夜だった。

 仲間が焚き火で煮てくれた。豆だけのスープと、固いパン。

 あれが、王宮勤めの人生で最初の温かい食事だった……」


 男の声は静かだったが、言葉の一つひとつが牢の壁に染み込むように響いた。

 大柄な看守は黙って聞いていた。

 この男が、王を殺した理由はまだ語られない。

 だが、黒パンと豆のスープが語るものは、確かにあった。


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 そして、夜が更けていく。

 牢の外では、月が雲間から顔を覗かせていた。

 死刑執行まで、あと六日。

 その静寂は、まるで運命の足音を待つかのように、深く、重く、牢獄を包み込んでいた。


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