第3節 紅の夜 6話目
「呪い、か……」
――あの外道ならば、そこまでやるだろう。一度敵対したならば、二度とそのような愚かな考えが起こらないよう徹底的にやるだろう。
あってはならない信頼感が、彼女には確かにある。争いごとに関しては鬼才とまでいえるような
そして極めつけは一切気負いすることなく
そしてそれの最たる証明が、グナーンの目の前に座っている。しかし今はその
「この国は呪いによってヴォーチアの死者が甦る日のことを、
「我々のような冒険者には
グナーンから言葉を引き継ぐようにドーバンが口を開くも、再び会話の主導権はグナーンに奪い取られる。
「これが結構危険な依頼でね。グール相手とはいえ桁違いの物量が襲い来るから毎年死者が絶えない」
そして何よりも死霊系のモンスターによって死に引きずり込まれた場合が一番面倒なことになるのだが、その辺の話は現時点では割愛。
「基本的にはCランク以上のパーティを対象としているんだが、ここで合ったのも何かの縁。今回はヴァン君にもぜひ手伝ってもらおうと思っていてね」
「俺にか?」
別に一度葬った相手をもう一度葬るような真似など、特段思う所もなく淡々と成し遂げることはできる。しかしここでレーヴァンが引っかかっているのは、対象となるパーティのランク。
「って言われても、俺まだDだぜ? Cランクじゃねぇし――」
「そこはまた俺の方から推薦しておくから心配なし! それに
「最後には複数の貴族が
「ハイハイ、その辺はオマケみたいなものだから別に後でいいでしょくっだらない」
グナーンとドーバンのメインの目的は舞踏会にあるのか少しばかり浮ついた雰囲気が漏れ出ている様子だったが、それをイェレナはバッサリと話を切ってさえぎってしまう。
「なんだかんだ言って危険なことには変わりないの。実際問題として人手不足でCランクまでもが駆り出されているけど、死亡率が一番高いのもCランクなんだから。それをDランクの子を誘うなんて――」
「まあ、ヴァン君は大丈夫だろ! 皆も知っての通り、彼は爆破魔法を使える。それならグール相手でも問題ないはずさ!」
「そうかもしれないけどさー……」
基本的に、グールは火に弱い。そのため炎を扱うのが得意な魔法使いは優先的に選出されるが、その分危険性の高い場所を割り当てられてしまう。
「外周部の討ち漏らしの討伐だけならまだしも、墳墓内に踏み込む
「その辺は周りもフォローに入るだろう。皆死にたくないからな!」
「はぁぁ……私がその時どれだけフォローに回っているのか知らないでしょ貴方達……」
戦う前から既に気が滅入っているのか机に突っ伏して顔を伏せるイェレナだったが、レーヴァンはこの時自分には特にフォローも必要ないと思っているのか、他人事のように聞き流している。
「……それで具体的にはいつからだ?」
「ん?」
「依頼は受けてもいいけどよ、今日明日である訳じゃねぇんだろ? 確か戦争が始まったのは――」
「今日から数えて三日後、だね」
その戦争を実際に経験していないグナーンは、まるで歴史の問題に答えるかのようにサラリと答えを返す。
「空模様の変化という意味では、今夜から
「明後日か……」
ウェルングやアドワーズがいない中、勝手に依頼を受けていいものなのか。それにここでもう一つ気がかりとなっているのは、二人がいつ帰ってくるのか。
(片道で半日かかる計算だと、どう考えても今日は無理だ。そんな危険な夜に帰すほど貴族も馬鹿じゃねぇだろうし……翌日の早朝に出発して、こっちに帰ってくる感じか?)
特に連絡手段も持たない中、憶測で下手に動くこともできないレーヴァンだったが、その様子を察したのかグナーンもすぐに返事を返す必要は無いと告げる。
「返事は今すぐじゃなくてもいい。明日辺りにギルドに顔を出して受付嬢に一言出るか出ないかだけを伝えておいてくれ」
「本当にそんなもんでいいのか?」
「ああ。俺の推薦だと言えば話は通じる」
そうして食事も終えて一服着いたところで、グナーンは用件を全て済ませたとばかりに席を立ち始める。
「それじゃ、支払いは済ませておいたからお先に失礼」
「ちょっとグナーン!?
「それは別に今すぐじゃなくてもいいじゃないか。それよりもたまたまヴァン君に会えたことの方が大事さ」
「まったく、我らがリーダーには困ったものだな」
そうして残りの二人もまた席を立って軽く挨拶を済ませた後に、部屋を後にしていく。
「……それはそうと」
最後にふと足を止めた僧侶のドーバンが、振り向かないまでではあるが、意味深長な一言をその場に残して去っていく。
「――あまり見ず知らずの女の子に肩入れするものではありませんぞ」
「どういう意味だそりゃ?」
「ふっふっふ……大人になれば、分かりますぞ」
経験者が語るかのように、まるで先を見てきた者が忠告を告げるように。それでいて決して只の警告ではない、経験してみるべき痛みとでもいうような雰囲気で語るドーバンに首を傾げながらも、レーヴァンはその背中を見送っていった。
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