第7節 わし、新たな道へと一歩踏み出す
「――ってことで、すまねぇ親父殿。無駄遣いした分は働いて返す!」
「仕方ない。今あるもので仕上げるしかないじゃろうて」
レーヴァンが帰ってきた時間が遅かったこともあり、剣はほとんど完成に近い状態に仕上がっていた。後は柄を付ければ完成といったところで、ウェルングはそれまで集中していた反動か、椅子に座りこんで大きく息を吐く。
「まあ今回は見知らぬ貴族相手じゃからな。まともな剣を送っても目利きに長けてはいないじゃろうし、ちょっとした装飾ぐらい適当につけた方が興味を引けると思ったんじゃが……」
とはいえその出来栄えはというと、間近に見てきたリェルナにとっては素晴らしいの一言に尽きるものであった。
「…………」
「……どうじゃ? お前さんの師匠と比べて」
「えっ……ええっ! 師匠と同じ位凄いですねっ!」
真っ赤な嘘である。心の奥では、このドワーフの男の実力は師匠のそれを軽く上回っていることを認めている。半端に齧っているからこそ、知識があるからこそ目の前のドワーフの男の実力が分かってしまう。
「そうか。お前さんの師匠もさぞかし素晴らしい腕前だったんじゃろうな」
「ええ、勿論! ……まあ、今となっては病気で伏せっているんですけどね」
町医者に診てもらっても原因は分からず。それどころか流行病として皆から避けられる始末。病気が移らないというだけで、ただただ弱っていく師匠を看病するだけのリェルナの返答もまた、弱々しいものだった。
「…………」
「そうか……それは残念じゃな。しかし今回のコンペとやらで貴族と繋がりができれば、そこから医者を呼んでもらうこともできるかもしれんのう」
「えっ?」
ウェルングは出来上がったばかりでまだ柄もついていない剣を手に持って、上へと掲げて高らかにこう口にする。
「ウェルングとアイアンスミス工房、初の合作! これでどこかの貴族の目に留まりさえすれば、もしかしたらという話じゃ」
「それって――」
「ああ。炉を貸してくれなければ、わしはこの剣を作ることができなかった。その借りを少しでも返せればと思っての」
「っ! あっ、ありがとう、ございます……っ!!」
リェルナは自分の顔を隠すように、深々と頭を垂れた。
何故ならば本当ならば合作として提出してもらえることに喜ばなくてはいけないところを、師匠が救われるかもしれないということを前にして大粒の涙を流していたからだった――
◆ ◆ ◆
「――それじゃ、私達は剣の提出に行ってくるから! ヴァンはお留守番ちゃんとしておきなさいよ!」
「へいへい」
「はいは一回!」
「はーい……ったく、テメェが親父殿と一緒に出掛けてぇだけだろうが」
コンペの提出締め切り最終日。工房で留守番としてレーヴァンを置いていくことで、アドワーズは久しぶりの父と二人でお出掛けに心を躍らせていた。
「ふんふんふーん♪」
「なんじゃ、随分と上機嫌じゃな」
「勿論、お父様とお出かけできるんですから嬉しいんですよ!」
「そうか……」
(……改めて思うが、お前達二人には本当に感謝せねばならんな)
これがもしたった一人での追放旅だったのなら、その旅は随分とつまらないものになっていただろう。寂しさのあまり、首を取りに来た魔剣達に対しても、そっ首をすぐに差し出していたかもしれない。
しかし現実は違う。アドワーズとレーヴァン、二人の魔剣が自分を慕ってついてきてくれている。そして二人に手を引かれながら、新たに名を挙げるという目標に向けて自分は足を進めている。
「……ありがとうな」
「えっ?」
「いやなに、魔剣部隊に残る道もあったのにも関わらず、二人がついてきてくれたことに感謝しておるんじゃ」
「そんな! 私はお父様のお傍にいたいだけですから! ……レーヴァンは余計な野望を持っているみたいですけど」
「ハッハッハッ! その野望も、面白そうじゃろうて!」
ウェルングが新たに腰に挿げた剣。その剣は魔剣ではない、いたって普通の
しかしその剣こそが、ウェルングの新たな一歩へと繋がっていくのだった――
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