第6節 剣の作り方 3話目
かつては弟子を含めてそれなりの人数で生活を送っていたのであろう広間へと通され、一行は促されるままテーブル周りの椅子に腰を下ろす。
「とりあえず、飲み物でもどうぞ」
テーブルの上のランプの炎が揺らめき、辺りをほのかに照らしている。そんな中で金髪のエルフの女性は一旦奥へと姿を消し、そして再び姿を現した時には水の入った金属製のコップを三つ持っていた。
「ありがたく頂こう」
「お気遣いありがとうございます」
そう言われて差し出されたコップに手を付けるウェルングとアドワーズであったが、レーヴァンは一切手を付ける様子もなく、椅子に座ったままじっと金髪のエルフの方を見つめている。
「…………」
「……あ、あのー……ろ過した井戸水なので、お腹を壊すことも無いので大丈夫ですよ?」
「別にただの水を飲んだところで、俺には何の補給にも――」
そこまで口にしたところで、レーヴァンは射殺されるような視線を向けられていることに気が付く。
(何だよアドワーズ……)
(普通こういう時はありがたくいただくの! 魔剣基準で考えるのはやめなさい!)
言葉には出ていないものの、そうした目線誘導による無言のやり取りが交わされた結果、レーヴァンは納得いっていないものの渋々コップに口をつけることに。
「改めまして、このアイアンスミス工房を任されています、リェルナといいます」
「わしはウェルング。そしてこの二人はわしの子供でそれぞれアド、そしてヴァンという」
水を飲んで一息つき、そしてお互いの名を知ったところで早速話は本題へと入り込んでいく。
「……ところでギルドから聞いた話なのですが、炉を貸して欲しいと聞いているのですが」
「その通り、貴族主催の
「……コンペ、ですか……」
ウェルングが見た限りでは、下の炉は一週間以上火入れがなされていない。そして目の前のリェルナが身に着けているエプロンのすすも、ここ数日でつけられたものではなく昔のもの。更に言うなら、すすの付き方が下手な鍛冶師のそれとしてウェルングの目には映っている。
恐らくはポーズだけで、実際にはこの工房は一切稼働していない。ならば別に貸すことになっても何ら問題ないと、ウェルングはそう踏んでいた。
しかし返ってきたのは意外な答え。
「こっ、コンペみたいな立派なところに出すなら、うちみたいなしょぼい工房じゃなくて、もっとちゃんと立派な工房からお借りした方がよろしいかと!」
「……ギルドから勧められたのはここしかないんじゃが」
「う、うちは刃物とかの鍛造は行っていないですし、鍋とか、やかんとか……そういったものしか作っていないんですよ!」
しかしながら実際に目にした鍛冶場周りを思い返せば、武器を作るにあたって十分な設備となっているのは間違いない。ウェルングはこれは何か理由があると思い、素直に引き下がることなく更に質問を重ねる。
「生活品を作っているだけにしては結構な道具が揃っているようじゃが」
「それは先代が使っていたもので、私には使いこなせないというか……」
折角設備が揃っているというのに、このままでは宝の持ち腐れでしかない。それにコンペ締め切りまであと三日となれば、多少強引でも話を進めていくしかない。
「……よし分かった! これからわしがあの場を借りて一晩でテーブルナイフを一本作ってやろう。それを見てお前さんがわしに本格的にこの場を貸すかどうか決めるといい」
「えっ? えぇーっ!?」
信用ならないのならば、まずは腕前を見て貰って判断して貰うしかない。そう思ったウェルングは早速道具を揃えるべく、椅子から降りて工房へと向かって行く。
「えっ、ちょっ、まだ貸すなんて――」
「ふぁあ……親父殿がやるってんなら俺はもう寝るかな」
「ちょっとヴァン! 今日の見張りはどうするの!?」
「そんな一日二日で来ねぇだろ。気になるならテメェが見とけ」
そう言って勝手に居座ることを宣言した挙句椅子にもたれかかって目を閉じるレーヴァンまで出てくれば、リェルナもどっちを止めればいいのかと困り果ててしまう。
「ど、どうしようどうしよう……」
「ご心配なく、リェルナさん」
「えっ……?」
職人としてのスイッチが入った
「私の知る限りでは、お父様に勝る鍛冶師は見たことがありません。そしてこの愚かな弟ですが、ここで勝手に寝かせておいてあげてください。無論私も含めて――」
――ベッドなんてご用意していただく必要なんてありませんから。
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