第3節 わし、息子達から追われる 5話目
「……やはりそうなるじゃろうな」
あまりにも当然の、そしてダーイン側に有利過ぎる提案だった。
与えられた選択肢は二つ。一つはこの場で二人を大人しく引き渡すことで、ウェルング自身は見逃して貰えること。つまりは最初と変わらず、一人での追放を受けること。
そしてもう一つは――
「ふざけんじゃねぇ!! テメェが出張ってきた時点でどの道殺すつもりだろうが!!」
「何度も言わせないでくださいレーヴァン。そのつもりならこの場に立った時点で剣を抜いています」
その言葉通り、ダーインはまだ抜剣をしてはいない。しかしまるで警告をするかのように、背負った剣の柄に手を伸ばしている。
「しかしなぜダーインお兄様が……私達を連れて帰るだけのつもりなら、ガラハお兄様の方が適任のはずです」
「確かにガラハなら俺達だけを無理やりにでも連れて帰ることができるかもしれねぇが……」
「兄上は追跡ができないでしょう? それにレーヴァン程ではないとはいえ、あの人も気まぐれを起こされる可能性もありますからね。それにこの程度のことで、わざわざ二人がかりで国を超える必要はありません。共和国側に偵察行為だと思われたくもありませんし」
ガラハという剣の持つ力を示唆してアドワーズ達は異論を唱えるが、ダーインの持つ追跡能力は、他の魔剣にはない特有のもの。その他のリスクを考慮しても、この場にダーイン一人が立っていることは理にかなっている。
「どっちにしろテメェが出張ってきた時点で、命のやり取り前提で話をしに来たってことだろうが」
「ですから話に来たとしか言っていないでしょう。理解力の無い弟に育ってしまったこと、兄として悲しむと共に、父君のここまでの苦労もお察しできます」
「同情など今更いらんわい……それよりわしのことはともかく、二人は戻ったところで罰を受けたりだとかはないんじゃろうな?」
「っ!? お父様!?」
この話がダーインから出た時点で、ウェルングの考えは決まっていた。そしてそれを察したアドワーズはそれまでダーインだけを捉えていた視線を父ウェルングの方へと向け、動揺した表情を浮かべる。
「罰は……まあ、軽い事情聴取を受けるべく軟禁状態にはなるでしょうが、受けさせるつもりはないとだけ」
「そうか。それならば安心じゃ」
「おいおいおい親父殿、それじゃあまるで俺達をダーインに引き渡すみてぇじゃねぇか!?」
「みたい、じゃなくそのつもりじゃ」
ここで察しの悪いレーヴァンも信じられないといった様子でウェルングの方を振り向いたが、この場でこの交渉に答えがひとつしかないことを理解できているのは、交渉を仕掛けたダーインと、それを受けるウェルングだけ。
「話を蹴ったところでわしの命を狙うのは当然。それだけならいいが――」
「やはり父君はお優しい。僕と二人が戦うのを見たくない、と」
「…………」
ダーインの言葉に、ウェルングは沈黙した。それを見てフッ、と悟ったような表情で柄に伸ばしていた手を引っ込めると、ダーインは改めて二人に向かってこう言った。
「……そういうことで、取引は成立したようですね。ではこちらに来なさい、レーヴァン――」
――二人に差し伸べた手に返された答えは、燃えさかる炎の剣だった。そしてその燃え盛る炎の剣を受け止めたのは、それまでダーインの背中に背負われていた筈の、夜の闇よりも暗い黒剣だった。
「レーヴァン!?」
「残念ですよ、レーヴァン。もう少し大人になっていれば、剣を抜かずに済んだというのに!」
そうして抜いた剣の切っ先をウェルングに向けることによって、ダーインは明確な殺害予告をウェルングに明示した。
「はてさて、剣を抜いてしまった以上、誰かに死んでもらわなければならない……剣を抜くときは殺すと決めた時。それが僕の生まれた理由であり、力の証明でもある」
「っ、馬鹿っ! お兄様が剣を抜いたってことは――」
「いい加減腹括れ! アドワーズ!!」
最悪の事態にアドワーズはあらゆる罵声をレーヴァンに浴びせようとした。しかしレーヴァンはその前に全てを一喝して、その口を閉じさせる。
「親父殿についていくって決めた時点で、こうなることも分かってただろ!!」
「……でもっ――」
「俺達でやるしかねぇんだ!! 俺達はもう、あのクソッたれの王に従うだけの魔剣部隊じゃねぇ!!」
「レーヴァン……」
ダーインと真っ向から向き合うことで見えるその背中。それまで単なるお調子者、そしてガサツでしかなかった剣の姿が、立派な剣士としての姿に変わっているように見えてしまう。
「――俺達は、親父殿の剣だ!!」
「……っ! ……そうね、その通りだわ」
そして遂にアドワーズも、それに呼応するかのように剣を構えてダーインと戦う姿勢を見せている。
「……残念です。父君が望んでいなかった光景を、兄弟同士が戦う姿を見せる羽目になるとは」
一番見たくなかった光景。しかし決意のこもった二人の姿を前にすると、自然と目が釘付けとなってしまう。
「……っ」
「心配すんな親父殿!」
「んん……?」
これからの戦いを前に心配していると思ったのか、レーヴァンは振り向くことはないものの、口角を上げてこう言い放った。
「俺はこう見えて、ダーインとの喧嘩に五回も勝ったことがあるんだよ!!」
「……本人を前にして、随分とふざけたことを言いますね」
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