第2節 わし、初めての引率 2話目

「では馬車で決めていた通り、南側と北側、二手に分かれて掃討を開始しよう」


 ゲーヌの森の丁度真ん中あたり、脇には湖もあるちょっとした草原にて、一同はそれぞれの役割を決めていた。

 チーム分けとしては比較的危険度の低い南側にウェルング達三人とヒーラー役のドーバン、そして危険度が高めの北側にリーダーのグナーンと補助にイェレナと、四人と二人に分かれるという変則的なチーム分けが行われた。

 北を担当するグナーンとイェレナは終わり次第南を手伝うためにも先に森へと入っていくが、南側のチームはというとまだ準備が整っていないのか森に足を踏み入れようとしない。

 やはり口ではああいっても、初めての依頼となると緊張してしまうのが初心者というもの。そう考えたドーバンは、リラックスさせるためにも二人に声をかけようとした。


「心配せずとも、私が新人たちのお守をしよう。君たちは存分に腕を振るって――」

「じゃあ俺は南西側いくからアドは南東な」

「今度はちゃんと数えておきなさいよ。じゃないと勝負にならないからね」


 ――しかし現実は違っていた。二人は単に前回の勝負の仕切り直しをすべく、割り振りを決めていたにすぎない。


「それでは、お先に失礼――」

「なっ!? 消えただと!?」


 抜剣し、神速でその場から姿を消すアドワーズに驚きを隠せずにいるドーバンだったが、それだけでは終わらなかった。負けじと続くレーヴァンの方も、右手を前に突き出して手のひらに炎を生成し始める。


「多少森を焼いちまうかもしれねぇが、これが一番手っ取り早いしな」

「また嫌な予感がするんじゃが……」


 炎の灯りによって、レーヴァンの不敵な笑みが照らされる。そしてその場に残されたドーバンとウェルング、二人の嫌な予感は見事に的中することになる。


「――爆ぜ進む熱波ヒートウェイブ!」


 次の瞬間、爆炎を携えた猛烈な熱波が、右腕を突き出した先に放射状となって広がっていく。

 それらは木々をなぎ倒し、道なき場所に焼け焦げた道を作り出す。


「さぁて、行ってくるかぁ。焼死体として残す為にも、あくまで手加減が大事だからなぁー」


 そうしてずかずかと森の奥へと入っていくレーヴァンの背中を、残された二人は黙って見送ることしかできない。


「……はぁ……まったく、馬鹿もんが……」

「……私の手伝いは、いらなさそうですな……ひとまず先に、この先にある見晴らしの良い小高い丘で休憩所キャンプの設営でもして、二人を待ちましょうかな……?」


 手加減をしてもなおAランクを唖然とさせてしまった二人に呆れ返るウェルングと、まさにその通りに唖然とするばかりで加勢の手を止めるドーバンとで、二人の帰りを待つべくその場に残ることとなった。



          ◆ ◆ ◆



「せやぁっ! はぁっ!」


 作物を刈り取る農婦がごとく、アドワーズはすり抜けざまに次々とモンスターを撫で斬りで始末していく。

 生命活動の断絶を目的とした一切の無駄のない動きはまさに人間技とは思えないそれであったが、幸いなことにそんなアドワーズの姿を目にする者はこの場に存在しない。仮にいたとして、次の瞬間には事切れているのは間違いない。


(フフッ、南西向こうよりもこっちの方がモンスターも多いみたい!)


 途中ゴブリン族が独自のコミュニティーとして築き上げてきたであろう小さな集落。中には一切敵意すらなく迫りくる脅威に怯えるゴブリンも見受けられたが、今の彼女にとってはただの殺害対象に過ぎない。その目に入ってしまったが最後、特段の感情を持つこともなく、ただ斬り殺す為にアドワーズは駆け抜けていく。

 与えられた命令に一切疑問を抱くことなく、ただ完璧に遂行する。そこには人間とは決定的に異なる、魔剣としての性質をうかがい知ることができる。


(今の集落で数を稼げてラッキーだったわ。これであのレーヴァンに負けることはない……!)

「今回の勝負、どうやら私の勝ちみたいねレーヴァン!」


 聞く者などいない中で、森をかけ走りながらの勝利宣言。アドワーズはその剣の閃きを増していきながら、更に森の奥へと討伐の足を進めていく。

 ――そしてその一方でまた、レーヴァンの方も目に見える形での討伐を繰り広げている。


「……あっ、また爆発ですな」

「森が焼け落ちたらどうするつもりじゃ、あのバカ息子め……」

「まあ、多少の火事程度なら魔法の実験ということで言い訳もできますから」


 どう考えても実験と言い訳するには規模が大きすぎる――ウェルングは用意していた水筒の水を飲みながら、遠くて次々と打ちあがっていく火柱を見て大きなため息をつく。


「もう少し加減をしろというのに、全く……」

「はははっ……まああれほどの火力を出せるのなら、Fランクは確かに不服でしょうなぁ」

(というより、どう考えてもFランクレベルではない……我々と同格のAか、あれが本当に加減しているものだというのであれば、もしかしたら……)


 この地の民が知らないだけで、既に他所の国では有名な冒険者なのか。はたまた天賦の才を秘めたルーキーか。まさかの可能性も含めて、ドーバンは森の様子を見ながら、ありとあらゆる思考を巡らせるのだった。

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