第13話 雪解けの季節は暖かく


カフェの空気が一瞬で凍りついた。

「ちょ、ちょっと待って!辞めるってどういうこと!?」あかりが慌てて身を乗り出す。


「最初に申しましたでしょう?“一度きり”と。わたくしの気まぐれで付き合ったまで。約束は果たしました」

瑠璃るりは涼しい顔でグラスを傾ける。


「そんな……」はなが俯く。

「おいおい!ここからが根性の見せどころやろ!」煉佳れんかが机を叩く。

「根性だけで人は動きませんわ」瑠璃は肩をすくめた。


「ヤバ…せっかく9人揃ったのに…」さすがの莉愛りあも声を絞り出すしかなかった。

「……でも、瑠璃ちゃんの気持ちも分かるよ。失敗したもんね」心春こはるが呟く。


その場に重い沈黙が流れた。

だが結衣ゆいが口を開いた。

「確かに失敗したわ。でも、それで終わりにしたら、本当に“笑いもの”のままよ」


「……」瑠璃は結衣をじっと見つめる。


光が続けて立ち上がった。

「悔しいんだよ!私は!もっと上手くなって、もっとお客さんに笑顔になってほしいっちゃん!その為にも瑠璃がおらんとダメなんよ!」


「わたくしが……必要?」瑠璃の瞳が一瞬だけ揺れる。


「もちろん!」花が声を張る。

「ステージでの瑠璃、めっちゃ綺麗やったぞ!」煉佳も頷く。

「ウチの紫と、瑠璃のシルバー、並んだら最強やしね!」莉愛が笑う。


「アイドルは宇宙……9人で星座」日菜ひなのぽそっとした声も響いた。

「日菜も静かに!」と結衣が反射的に突っ込んだが、瑠璃の表情は緩んでいた。


数秒の沈黙の後――。

「……まったく。あなたたちはどうしようもなく無鉄砲ですわね」

瑠璃は小さく笑った。


「よろしいですわ。ここまで言われて、背を向けるのもわたくしのプライドが許しませんわ。続けて差し上げます」


「やったぁーー!!!」光が飛び上がり、花が泣き笑いし、煉佳が「根性の勝利!」と叫ぶ。

莉愛も「バリやば展開w」と爆笑。


「ほんと、騒がしいわね……」結衣はため息をつきながらも、どこか安堵していた。


「蒼葉、お水いる?」

「…今描いてるから」


――数日後。


放課後の体育館。

9人が円陣を組み、汗だくになりながら練習していた。


「もっと声出していこう!」

「ステップずれてる、合わせて!」

「根性だー!」

「バリやば盛り上がりやん!」


掛け声が飛び交い、笑いと真剣さが混じる空間。

その中心に、もう迷いを見せない瑠璃の姿もあった。


9人の動きはまだぎこちない。

けれど確かに、同じ方向を向いて走り出していた。


こうして――

Aster《アスター》の1年目は幕を閉じ、彼女たちの挑戦は次のステージへと進んでいく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

挑戦の星座 〜一年生〜 非常口 @ohenjiya-tocky

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ