第6話 絵描き

放課後の美術室。

窓から差すオレンジ色の光の中、静かにスケッチブックに鉛筆を走らせる少女がいた。

高遠蒼葉たかとおあおば

彼女は授業中ですら絵を描き続け、クラスでもほとんど喋らないことで有名だった。


「……ねぇ、あの子、めっちゃ集中してる」

あかりが小声で囁く。

「今は邪魔しちゃダメやない?」はなが心配そうに言う。

「いや、こういう子こそステージに立ったら映えるとって!」


ズカズカと美術室に入っていった光が声を上げる。

「おおっ!めっちゃ上手い!ねぇ、これ私に似てない!?」

「……今描いてるから」蒼葉は視線を上げない。


「光、それ多分……犬だよ」花が小声で囁く。

「えっ!?犬!?ちょ、鼻とか似てない!?」光は慌てて訳がわからない。


「バリうけるw 犬は草」莉愛りあが爆笑。


結衣ゆいは頭を押さえてため息をつく。

「もう邪魔しないの、うるさいから出て行きなさい!ごめんなさい、高遠さん」

「いやだー!だって気になるっちゃもん!」



そう言って蒼葉に駆け寄る光。

「君!アイドルやらない!?」


鉛筆の音がぴたりと止まり、蒼葉はゆっくり顔を上げた。

「……今描いてるから」


「アイドルは宇宙。たくさんの星達が宇宙の――」

日菜ひなも静かに!」結衣は日菜の言葉を遮った。


場が乱れかけたとき、莉愛がスッと蒼葉の横にしゃがみこんだ。

「ねぇ、ウチらが活動する時さ、絵描く時間もちゃんと作っちゃーよ。ね?それなら出来ちゃうかも?」


蒼葉はじっと莉愛を見つめ、再びスケッチブックに視線を戻した。

鉛筆の音が数秒だけ続き――そして短く一言。

「……そうかもね」


「えっ!?これってオッケーってこと!?」光が身を乗り出す。

「よっしゃー!また仲間が増えたー!」煉佳がガッツポーズ。

「待って、まだちゃんとした返事が――」結衣の声は、誰にも届いていなかった。


こうして本人も気付かずして高遠蒼葉は加入となった。


しかしながらそのクールさと独特な存在感は、チームにまたひとつ新しい色を加えることになった。

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