第4話 監視役
日菜を仲間に迎えてグループも4人となり、アイドルとしての活動が視界に入ってきたある日。
「今日こそチョココロネ!」光が全速力で駆け込む。
「私もチョココロネ!」花も負けじと棚に手を伸ばす。
二人の手が同時に同じパンを掴んだ。
「それ私の!」
「いや私が先!」
揉めていると、後ろからすっと
「列に並びなさい」
パンを取り合っていた2人は思わず固まり――周りの生徒たちは笑っている。
「光が急ぐから!」
「いや、花が強引なんだって!」
結衣は「はぁ…」と小さくため息をつきながら、パンを買い去っていった。
⸻
放課後、校舎裏。
光・花・
「いい?次は絶対に結衣ちゃんを仲間にするっちゃけんね!」光が真剣な顔で宣言する。
「そうやね。人数が増えれば活動もしやすくなるし……なにより、結衣ちゃん頼りになりそうやし」花が穏やかに頷いた。
「で、どうやって説得するとや?」煉佳が身を乗り出す。
「いや、やっぱ根性やな!『入れ!』って何回も言えば入るやろ!」
「……却下」光と花が同時に即答。
「えぇ!?なんでぇ!」
「日菜ちゃんはどう思う?」花が隣を向く。
日菜はぼんやり空を見上げていた。
「アイドルは宇宙……星座には“しっかり者の星”が必要」
「うんうん!そうそう!だから結衣ちゃんはその星だから仲間になって欲しい!」光が勢いよく同意する。
「やけんが、根性で言えば……」煉佳が再び口を挟む。
「もういいよ煉佳ちゃんは!」光が両手で煉佳の口を抑えた。
「根性ばっかりじゃ逆に逃げられるって!」
「えぇ……」煉佳は体操座りでうなだれる。
「じゃあこうしよう」花が整理するように手を合わせる。
「光が右手、私が左手を掴んで……」
「日菜ちゃんが後ろから抱きつく」光が続ける。
「……そうすれば、結衣ちゃんは逃げられない」花が小声で呟いた。
「完璧だね!」光が笑顔を見せる。
「犯罪…?」日菜の疑問の声は誰にも届かない。
こうして――結衣を強引に巻き込む作戦は決行されることになった。
……ただし、煉佳は「役に立たん」との理由で当日作戦から外されてしまった。
⸻
次の日の放課後の廊下。
生徒会室の前に書類を抱えてやってきた結衣。
腕章をきちんと整え、真面目そのものの顔。
その瞬間――。
「来たよ!」光が小声で合図。
「あ〜、本当にやるんよね〜」花が慌てる。
「ふわぁ……、やろ〜」日菜が欠伸混じりに同意した。
結衣がドアノブに手をかけようとした瞬間、
光が右手をがしっ!
花が左手をがしっ!
さらに日菜が後ろからぎゅっと抱きしめた。
「ちょっ、な、なに!?」
「結衣ちゃん、アイドルやろ!」
「わたし達だけじゃ不安だから!結衣が必要なの!」
「ねー、やろーよ〜」
抵抗しようとした結衣だったが、3人の顔はどこまでも真剣で……どこまでも無鉄砲だった。
「はぁ……まったく。あなたたちは…本当に心配でしかないわ…」
結衣は深く息をつき、肩を落とした。
「仕方ないわね。監視役として……参加してあげる」
「やったー!!!」
光が飛び跳ね、花は胸を撫で下ろし、日菜は相変わらず結衣に抱きついたまま。
「ちょっと、日菜!いい加減離れなさい!」
「やだ〜、結衣もアイドルやね〜」
「先行きが思いやられるなぁ……はぁ……」
こうして宮本結衣も加入。
「心配だから」という理由を掲げつつ、
その胸の奥にほんの少しだけ、何か期待を隠していた。
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