第1話 期待



  

春の丘に、新入生たちの制服姿が集まっていた。

設立からまだ数十年の「流星台女子高校りゅうせいだいじょしこうこう」。

「自由と挑戦」を掲げるこの学校は、厳格さよりも生徒の自主性を重んじる。


入学式の壇上で、校長が言葉を紡いだ。

「流星台は歴史が浅い。だからこそ、みなさん一人ひとりの挑戦が、新しい伝統をつくるのです」


拍手に包まれる中、「新入生代表」として壇上に立ったのは御影瑠璃みかげるり

「新入生代表、御影瑠璃です」

透き通る声で挨拶を述べる姿に、会場は息をのんだ。

背筋を伸ばし、凛とした声で宣誓を述べるその姿は、まるで光に包まれているようだった。


その時、後方に座っていた南雲光なぐもあかりが隣の沼倉花ぬまくらはなに小声で囁いた。

「ねぇねぇ、あの人めっちゃ美人やない!?」

「光、声が大きい……!」花が慌てて袖を引っ張る。


先生の視線がビシッと飛んできて、光は縮こまった。


「ひゃっ、ごめんなさーい…」


瑠璃は気づいているのかいないのか、堂々と挨拶を締めくくり、会場は拍手に包まれた。


式が終わった直後、光は花の腕を引っ張った。

「ねぇ花!私たちも、伝説作ろ!」

「えっ、もう?まだ教室も分かっとらんのに……」

「いいのいいの!私たちでこの学校をもっと輝かせようよ!」

「……まぁ、光が言うなら」


「よーし決まり!私たち、アイドルやろう!」

「……え?」


ちょうどそこへ、生徒会書記の宮本結衣みやもとゆいが通りかかる。

「アイドル?……また面倒なことを考える子が現れたわね」


入学初日。

アイドルへの最初の一歩は、こうして踏み出されたのだった。

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