私の夏休み、幽霊と共に時をかける
れけむ
夏休み0日目
みなさんは、幽霊を見たことあるだろうか。
幽霊がいる、って思ってる人もいない、って思ってる人もお互い言い分はあるだろうが、私’’桐谷ゆか’’はいると思ってるし、信じてもらえないだろうけど最近幽霊をちょくちょく見ている気がする。
気がする、というのはおとぎ話とか映画とかに出てくるようなボロボロの服を着た髪のながーい女性がふらふら近づいてくるとかじゃなくて、アニメに出てくるようなゴシック風のストレートな白髪で、黒いセーラー服を着ている女の子だ。
その子が現れ始めたのは、今年の梅雨のジメジメでうっとおしい時期だった気がする。
普段から私はクラスで誰よりも早く学校に着くのだが、誰もいないと思っていた教室にはその子が立っていた。
うちの学校の制服を着ていなかったから最初は転校生かなって思った。
一応学級委員長である私は「おはよう、はじめまして、だよね?」って声をかけた。
そしたらその子は「えっあっ、私が見えるんですか!?」ととても驚いた様子だった。
「う、うん、もちろん見えるけど?」って返答すると「人に話しかけられたの、数十年ぶりだよー!」なんて返ってきたので引っ越しに時間かかってたのかな?なんて事考えながら「面白い人ね、私、桐谷ゆか。よろしくね」と挨拶。
その子からも「私、時駆みらい、よろしく!」と元気に返ってきた。
それで握手しようと手を伸ばしたら相手も手を伸ばしてきたのだが、感触がまったくなかった。
脳がバグったかと思って目をよく凝らすと手は交差はしてる、けどみらいの手を貫通...!?ふとみらいの顔を見ると同じく困惑の表情を浮かべ、こっちの視線に気づくと「てへへ...」と照れくさそうに笑った。
ふと気がつくと朝の誰もいない教室で私は寝ていた。
それっきりその子は私の前に姿を見せなかったので変な夢でも見てたのかな、と思い忘れていた。
それから、いよいよ夏休みに入ろうとしている終業式の日だっただろうか。
家に帰る途中、彼女は突然、私の前に姿を表したのだ。
その時の格好は前に着ていた黒いセーラー服と異なり白い薄手のワンピースだった。
一見、夏を満喫しているようにも思える格好だが顔はひどくやつれていた。
向かい側からよろけたように歩いてくると私の耳元でこう囁いた。
「たす、けて...」
かすれていてほとんど聞こえなかったもののひどく悲痛な叫び声のように聞こえた。
「どうしたの?」とふらふらと通り過ぎていく彼女に声をかけた。
彼女がハッとしたようにこちらを振り返り、ぶわっと泣き出した。
「お願い、たすけて...」
それから、ちょうど自分の家も近かったので自分の家に来るように伝え、ベットで寝かせているのが現在である。
事情を聞きたいのは山々だがかなり疲弊しているようなので起こすのも悪い、と思って夕飯の支度を始める。
幼い頃に母が亡くなり、父は仕事のため夜に帰ってくるのでいつも夕飯は自分で作っているのだ。
今日ははチャーハン、そんな楽に作れるものではないが明日から夏休みということもあり久しぶりに作ることにした。
普段から仕事帰りの父の分も合わせ2人前の料理を作っているのだが今日はみらいが食べることを想定して3人前を作る。
炒めて完成、と皿に盛り付けているとちょうど上の階から降りてきた、3時間ほど寝たおかげか顔色がマシになったように見えるみらいが「いい匂い...」と呟いた。
「チャーハン、食べる?」と聞くと「チャーハンってなに?」と返ってきたので驚いて「もしかして、食べたことない!?これ!」と皿に盛り付けたものを見せる。
そしたら「焼き飯のこと?食べたい」と返ってきて???となった。
それから無言の食事が始まったのだが、普段から一人で食べてる癖に静寂が苦手な私はアイスブレイクのために「どこからきたの?」と聞いた。
「嘘だって思われるかもしれない、信じてくれるなら話す...」と渋るが
「そんな、やつれてる人の話を聞いて嘘なんて思わないよ!」とフォロー。
「じゃあ、手、触ってみて」とすっ、と手を差し伸ばしてきた。
意味もわからず手を触ろうとしたのだが触れるはずの肌の感触が無くみらいの手を貫通した。
「っ!?」と声にならない驚きを見せると
「私ね、幽霊なの、もう死んでるの」と返ってきた。
幽霊、死んでもなお生きたいっていう願望が強すぎて魂が成仏できなかった人だと本で見たことある気がする。
「いつから、幽霊なの?」
「もう、80年とかかな、本当はおばあちゃん、どころかもう死んじゃってるか」とやけに明るい声で答えた。
「どうしたら、成仏できるの?」
「うーん、戦争で死ななかったら、かな」今度は悲しい声だった。
そういえば昔、この辺一帯は敵国の上陸による攻撃で焼け野原になったと聞いたことある。
「ど、どういうことなのそれは?」
「私は、敵兵に殺されて毎回死んで幽霊になって未来に飛ばされてる、昨日もそうだった」
「どうやって、過去に遡ってるの?」
「橋の下に時空が歪んでるところがある、そこから80年前の私が死ぬ2日前に戻れる」
あまりにも複雑な状況にあって頭が追いつかない。だが、彼女がとんでもなくすごい状況にいるのだけはわかった。
「あと、なんで私が見えてるの?本当は見えないはず」と質問された。
「なんでだろう、ね。私にはわからないや」と返す。
立て続けに「その80年前の世界、私も行ける?」と聞く。
「やったことないからわからない、し、もし行けたとしてもあなたも死ぬかもしれないんだよ?」
死ぬ、この言葉の意味がどれだけ重いか。
しかも会って間もない子のために命までかけるほど私はお人好しではない。
「次はいつ行くの?」
「1週間後、くらいかな」
「よかったら私の家で休んで」
「いいの...?ありがとう」とホッとした様子であった。
その後は風呂に入らせ私の服を変わりに貸す、幸いにも体格は同じくらいだ。
よほど疲れていたのだろう、3時間ほど寝たにも関わらず髪も乾かさず寝てしまった。
私の夏休み、0日目終了。
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