▶PLAY『くらげのできるまで』Ⅴ
麦わら帽子が海に浮かんでゆらゆらと揺れている。少しずつ沖に向かっていて、このままでは離岸流に流されてしまう。が、その帽子を力強く掴む手があった。
「サンキュー! 助かったぞ
「言ったろ。帽子は死守してやるって」
「頼りになるぜ。見たか
「うるさぁい。知らない人うるさい」
「……お待たせ」
砂浜で周りとお喋りしながら麦わら帽子を乾かす男子の前に、カントクがやって来た。なぜかヨレヨレになっている。
「なんかギャルの人たちに砂ぶっかけられたんだけど……」
「凝視してたからだろ」
「そんなにはしてねえよ……で、おまえは何を捨てるの? この役、もう飽きてきたんだけど」
「そう言うなよ。ちゃんと気合い入れてやれ。でないと延々とループするぞ」
「それおれが言うやつ。ていうかおまえ、身体拭けよ」
「仕方ねえだろ。海に飛び込んできたところなんだから」
「なんでだよ」
「脚本家がおれを嫌ってるからだ。おかげで帽子がマジで流されて焦ったぞ」
「十回以上飛び込んでたな。それも脚本家の指示か?」
「それは演出家としてのおれの判断だ。いい飛び込みができなかった。それより早く撮れよ」
「撮ってるよ。おまえと話してるとどこまで脚本でどこまでアドリブかわからなくなる。もう五回くらい飛び込んで時間を稼いでくれないか?」
「一回あがったからもうムリ。水、けっこう冷たいんだよ」
「じゃあ、おまえは何を捨てるんだ? ああ、言わなくていいや。テーブルに出さなくてもいい。たぶん映したらモザイクが必要になる」
「そう言うなよ。おれはこれだ。(
「出さなくていいって言っただろ。理由もいらん」
「それじゃ話が進まねえだろ」
「わかったよ……じゃあ聞くけどさ。おれはその子のファンとかじゃなかったからよくわからんが、実際会ってみてどうだったわけ?」
「眼福だぞ。その御姿が視界に入ると得した気分になる。毎日五百円玉を拾ってる気分だ」
「ビミョー……いや、いいなそれ」
「だろ? でもさ、喋ると普通なんだよな。ただの人だ、いい意味で」
「それは悪口だろ」
「違うんだよ。なんつうの? 生きてる人って感じでさ。ポーズとかしてるのを画面越しに見るのと、実際の生身を見るのとじゃ違う。脳の判断がバグる」
「なんだそれ」
「おれが好きだったのは作り物なんだと思った。大人にプロデュースされた商品を見てファンになってたんだ。でもそのときの目でリアルに暮らしてる生身の相手を見るのは失礼だろ? だからよくわかんなくなるんだ」
「そのピュアさを大事にしてくれよ」
「おまえ、おれをそんな目で見てるのか?」
「書いてあるんだよ! おれの言葉じゃない」
「おまえ、そういうこと言うなって」
「おまえだってさっき似たようなこと言ってただろ。いいからもうそれ、箱に入れろよ」
「おう。これは、上っ面に飛びつく『軽薄さ』の塊だ」
「それもおれの台詞……まあいいや。で、名前は?」
「
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