第13話 舞踏会と聖女様

「……それで、一つ聞いていいか? リオ」

「ん? なんだ?」


昨夜、シオンらがテイルの案内で連れられた家のリビングで、これからのことについてパーティみんなで作戦会議をしていると、何かを思い出したかのようにテイルがそうリオに声を掛ける。


「君の父を探すといっても、なにかあてはあるのか? 私が騎士見習いになっても見つからなかったあいつが、むやみやたらに探したって見つからないと思うのだが……」

「そこは安心しろ。俺も、何でもかんでも考えなしに行動してるわけじゃないからな!」


テイルの懸念にリオはそう返しながら、懐から四枚の紙切れを取り出す。


「それはなんですか? リオさん」

「ほら、二日後に王族主催の舞踏会があるじゃん? それの招待状だ!」

「そんなもの、一体どこで手に入れたんだ……?」

「ほら、俺って家出したとはいえ公爵家の息子だし」

「え、そうなんですか?」

「あ? 言ってなかったっけ?」

「俺らは君たちの事情なんて全くもって説明されてないぞ。リオとテイルが勝手に盛り上がってただけだ」


シオンとレイナのツッコみを受け、リオは少々狼狽えるが、すぐに「まぁ、俺は公爵貴族の息子なんだ!」と雑な説明をし、シオンとレイナは二人そろって苦笑いを浮かべる。


「それで、話を戻すが……俺の親父はルファイム公爵家の領主。だから、王族主催の舞踏会には確実に参加するだろうし、舞踏会で親父が見つかんなくても、舞踏会に参加する貴族の誰かからは、親父の情報を聞き出せるんじゃないかって」

「へぇ……それで、その舞踏会に俺やレイナまで参加する、と。その舞踏会は、貴族だけが参加するのか?」

「いや? 違うと思うぞ。確かこの舞踏会って、第一王子の婚約発表会も兼ねたものだったと思うし……そうなれば、聖女様も参加すると思うぞ」

「聖女……?」


リオの最後の一言に、シオンは軽く首をかしげる。


「聖女様とは、二十年周期で生まれてくる、金髪の髪に青色の瞳を持ち、回復ヒール魔法に特化した女性のことだ。古くから、聖女は王族と婚約することが義務付けられ、前々から、聖女様とこの国の第一王子が婚約することは決められていたんだ」


テイルの解説に、ほへぇとシオンは気の抜けた声を漏らすが、その解説を聞いていたレイナが、はいっと元気よく手を挙げる。


「テイルちゃん、その特徴を持つ女の子が同じ年に二人以上生まれたらどうするんですか?」

「いい質問だ。聖女候補となった女性は、五歳の誕生日に、”妖精の加護”を受けた水晶によって、聖女か否かを確認するのだ」

「”妖精の加護”って、いったい何なんですか?」

「さぁ? 私たち一般人には知る術がないから、”妖精の加護”が何なのかは分からないんだ……まぁ、噂によれば、4000年前、スタイル抜群の女妖精が、人間と妖精の平和条約を結ぶ際に信頼の証として、特定の物に与えた加護のことなんじゃないかって言われているぞ」

「その噂が本当なら、その、妖精の加護を受けた水晶って、4000年以上前からあるっていうことですか!?」

「まぁ、確証はないがな」


レイナとテイルの会話を聞いていたリオが、そういえばと言いながら手を叩く。


「確か、舞踏会には貴族たちの護衛の為に、騎士だけではなく、かの有名な勇者パーティも参加するらしいぞ?」


リオの発言に、シオンの心臓がドクンと跳ね上がる。


「勇者パーティって、あの……?」


顔を青ざめさせながら恐る恐るリオに尋ねるシオンを見て、リオは首をかしげながら「多分、お前が想像している勇者パーティだと思うぞ」と伝える。


その言葉を聞き、シオンは肩を震わせ、顔をさらに青くさせる。


その様子を見て、レイナはハッとなり、リオとテイルに「シオンさんは体調が悪いようなので、私が部屋へお連れしますね!」と焦ったように伝え、シオンに自身の肩を貸しながらリビングから出ていく。


その場に残された二人は、しばらくの間呆気にとられるが、レイナなら大丈夫だと信じ、二人でリビングでレイナが戻ってくるのを待つのであった。


♢♢♢♢♢


(いや、気まずい……!!)


テイルはレイナを待つ間、心の中でそう思いながら、チラリとリオの方を盗み見る。


つい先ほどまで殺そうとしていた相手と二人きり。気まずくないわけがなかった。……まぁ、当の本人はけろっとしており、テイルに呑気そうに話しかけているが。


「それにしても、テイルは物知りだなぁ」

「は? 何が?」


リオの話は基本的に突拍子もない。今回も、唐突にそんなことを言い出し、テイルを困惑させていた。


「だって、聖女様のことについてあんなに詳しく話せるんだ。物知りじゃないわけないだろ!」

「いや、あれぐらい常識だし……」


照れ隠しのように頬を掻きながらそう言うテイルに、リオは「いやいやいや! そんなことないだろ!」と否定する。


「だって俺、貴族の息子なのに、聖女様のことについて詳しく知らなかったし」

「いや、そこは知っておけよ」

「いやぁ、俺馬鹿だから分かんない!!」

「何だよそれ……」


堂々とそう言うリオに、テイルはプッと吹き出す。


その様子を見て、リオは優しそうな笑みを浮かべながら、テイルをまっすぐ見据える。


「……何?」

「いや、やっとテイルが笑ってくれたなって」


ずっと怒るか泣いてばっかだったろ? と、優しそうな表情で語るリオを見て、テイルは目を見開く。


「それに、お前は笑顔の方が可愛いよ」


「……っ!?」


やはり、リオの話は突拍子もない。


唐突にリオから発せられた言葉を聞き、そう考えながらテイルは自身の頬に熱が集まるのを身に染みて感じ取る。


やっぱり、貴族なんて大っ嫌いだ。


♢♢♢♢♢


「大丈夫ですか? シオンさん……」


一方、そのころ。


レイナはシオンをベッドに横たえ、心配そうに見つめながらそう聞く。


「あぁ……ありがとう、レイナ」


レイナの質問に短めに答えながら、シオンは彼女にそうお礼を言う。


「いえ、これぐらいなら大丈夫ですが……無理はしないでくださいね」

「うん、分かってる……それよりも、俺は大丈夫だから、レイナは早く二人の元へ戻った方がいいんじゃないか? 長居しすぎると、二人が心配するかもしれないし……」

「……そう、ですね」


心配でないと言えば嘘になる。でも、シオンにそう促されてしまえば、レイナがその場に居続ける理由はなくなってしまう。


大人しくシオンの言葉に従い、部屋のドアを開けて外に出ようとした瞬間、レイナはシオンの方を振り返る。


「私は、貴方の味方ですから」


そして、凛とした声でそう伝えながら、ドアをガチャリとしめ、レイナはリオとテイルの元へ向かう。



「はは、頼もしいな……」


レイナが部屋から去ってしばらくした後、シオンはそうつぶやきながら自身の前髪をクシャリと掴み、一人静かに涙を流す。


(アスカ……兄ちゃんはやっぱり怖いよ)


すでにこの世にいない妹に心の中で話しかけながら、シオンはベッドに全体重を預け、眠りへと落ちていくのであった。

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憎悪のアイオライト 夜桜 舞 @kamiyasotara

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