蛮王どもの輓歌 - rex non grata -

武論斗

プロローグ

 魔術まじゅつ――魔術とは、思念の具象化ぐしょうかを実践する理論体系と広義な学問、また、その技術と技能、プロセス。加えて、仕草、いや、礼法か。

 各々おのおの様々な種の魔術が存在し、その全てを網羅している者等、およそ皆無。神々ですら把握しきれない未踏みとうの領域、怪しげな術、伝承、オカルト、若しくは、出任でまかせ、出鱈目でたらめ、でっち上げ、要するに詐術さじゅつ蜚語デマ? 兎も角、その代名詞、あるいは、総称。

 知恵と知識、情報、ならわし、伝聞、研究、研鑽、知見、考察、記憶、記録、そして、感覚、ついでに本能。知性、つ、感性。考え、感じる、その二律背反アンチノミー將亦はたまた双極性バイポーラ大凡おおよそ、余人には理解し難い絵空事にして妄想、しかして現実、紛うことなき事実、だが、奇跡、いや、奇術か方便、魔妖まやかしか?

 無論、この解説も曖昧あいまい、俺は如何いかにも蒙昧もうまい。参ったね、的確な言葉が出てこない、これ以上、何もうまい、俺、Don't mindドンマイ


 只一つ、これだけは確実・・なのだが、魔力、人によっては理力だの感力だの様々な言い方があるが、これさえあれば徒手空拳でも魔術をいつでも披露できる、詠唱スペリングを伴う投射キャスティングが必要だが。

 この時、ワンドやロッド、ケイン、スタッフ等、魔術端末エッジデバイスがあればより効率的、且つ、効果的に魔術を発現する事ができる。

 玄人プロを気取る魔術師は、無手での投射を好む傾向が高いが、俺は当然、王彌ワンドを使う。

 王彌は2ファイド(約31.2cm)未満の短い杖を云い、柄頭つかがしら感応石シムを埋め込んでいる。サイズが小さいので魔力受容量キャパは少ないが術式残置時間リキャストタイムが短く、自然語詠唱プロンプトで発動させられる分、手数が多く魔力量が豊かな臨場りんじょう魔術師はワンドを好む傾向が高い。俺のような隠密魔術師シノービィーには必需品だろう。特に、零距離魔闘術マギア・ニル・ディスタンティアたしなむ者にとっては必須。統計学的には、無手の者より162%、投射効率は向上し、効果測定的には48%も増加するといった検測データもある。

 俺が普段使いしているのは、ツェンダン・ズヴラフカ国営社の77エクリプス・ナイトサイドモデルとレオ・モデロ999ヘビーカスタム。共に汎用規格の魔弾バレットが使えるんで現場・・では重宝する。フルオーダーした一点物なんて品は、ハッタリ好きの権威主義者向けなんでオススメしない。

 もし君が、4ターン・・・・魔術師だとしたら、一発投射する間に俺は256発以上投射できる。つまり、二杖遣にじょうつかいの俺がその気を出したら、最低でも512発以上、術を行使する事になる。賢明な君なら分かるだろ? 俺にちょっかい・・・・・を出さない方が長生きできる、と。

 いや、すまない。ちょっと、恰好付け過ぎだ、悪い。


 ン?

 嗚呼ああ、コレは失礼。

 俺が何者・・であるかを説明するのを失念していた。些細な事だ、許したまえ。

 俺は、有史上最古とされる王国に仕えていた・・・・・魔術師だ。

 今、その王国は、“ない・・”。

 新たな支配者層、クライアントにわれたフリーランスの魔術師。そう、しがない個人事業主。日々の生活にいそしむ労働階級。所謂いわゆる青方ブルーと呼ばれるヤツだ。

 フリーと云えば聞こえはイイが、肩書のない魔術師なんて、塩味えんみのないフライドポテトみたいなもんだ。塔でも持ってりゃ話は違うが、生憎あいにく、浪費癖が凄かったもんで……違うな、そうギャンブル狂いだったんで資産と呼べるものは一つもない。精々、この体くらい、か。


 今回の仕事は、亡国の王子を監視する業務。

 実に簡単な、故に、“安い・・”仕事。

 小童こわっぱ一人の様子を覗う、只それだけ。

 あン?

 魔術師の仕事っぽくないだって?

 勘違いしてないか?

 現場の魔術師なんて、俗なもんさ、いつだって。して俺は、隠密魔術師。

 それに、小僧を見るなんて仕事、俺が丁度いい。俺こそ最適。

 だって、そうだろ?

 ずっと続けてきたんだから。守ってきたんだから――これからも、そう、これから先もずっとずっと、いつまでも……

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