第14話 運命の大学受験
残念ながらセンター試験では3人ともひっかからず、
最後のチャンス、一般入試の日がやってきた。
俺は人生で一番集中して勉強したおかげか、C判定になっていた。
まさに五分五分。
やれるだけのことはやったから、あとは運を天に任せるだけだ……
すっかり住み慣れた部屋を出ようとすると、背後から声がした。
「おい、これやるよ」
振り返ると、佳麗さんが赤い包装紙と金色のリボンに包まれた
小さな箱をきまり悪そうに差し出していた。
「えっ、俺に……?」
「あ、あれだ、変な意味じゃないんだ、ほんのお詫びだよ、お詫び!
結果はどうあれ、俺の嫌なことを肩代わりしてくれたのには違いないしな!
ほっほら、頭が疲れた時には甘いものって言うじゃん、休憩時間にでも食えよ!」
「甘いものなんだ? どういう風の吹き回しか知らないけど、ありがとう!」
あれだけ元に戻るのを嫌がっている佳麗さんが、
その戻るチャレンジに向かう俺のことを案じて、わざわざ何かを用意してくれるなんて。
彼女も少しは……丸くなったんだな。
よーし、これがあればもう負ける気はしないぜ。
俺はプレゼントを宝物のように鞄にしまった。
最初の2科目が終わったところで頭が疲れてきた。
よーし、ここで佳麗さんからのプレゼントをいただくとしよう。
「えーっ、何それー」
舞華ちゃんと小夜里ちゃんが覗き込んできた。
「ああ、これね、2人と合流する前に、歳下の女の子がくれたんだ」
嘘じゃないもんね。
「ああー、佳麗はISSAだもんねー」
ん?
なに2人ともニヤニヤしてんだ?
たしかに俺はISSAやったけど、それがどうしたんだ?
プレゼントボックスを開いた瞬間、俺は一瞬でその理由を理解した。
口紅の形をしたチョコレートが6つ入っていた。
ああ、そうかー
受験に気を取られてすっかり忘れてたけど、今日はー
「ああっ、バレンタインにチョコ貰うなんて、初めて……」
俺が甘い喜びを噛み締めていると、2人は怪訝そうな顔をした。
「そりゃ、女である以上、友チョコ文化でもない限りはそうでしょ……?」
「ほんと、佳麗って女の子にモテるよねー?」
どういうつもりなんだろう。
本当にお詫びでしかないのかもしれない。
でも。
でも。
ちょっとだけ期待しちゃってもいいよね……?
全身にアドレナリンがぐぐぐぐっと巡った。
「よおーし、後半も頑張るぞーっ!」
「お、おーう!」
そして1週間後、合格発表の日がやってきた。
WEB上で発表するんだ……時代だなあ。
俺は発表時間(9時半)のちょっと前からサイトにアクセスし、
今か今かと更新ボタンを連打した。
「きた!」
俺の番号……
8251……
ハツコイ……
「あったああああ!」
「ええええ? マジかよ?」
佳麗さんは目玉が飛び出そうなぐらいに驚いていた。
「まさかマジで受かるとはなあ……ちぇっ、仕方ねえなあ。この身体は返してやるよ。
でも、ちゃんと仕事は見つけるか、今のをきっちり引き継げよな、
見た目も今の感じを保ってくれよ、戻ったことを後悔させないでくれ」
「わかってる」
猛勉強をしたことで、頭がだいぶ活性化した。
どっちの人生を生きるにしたって、上手く行く気しかしない。
しかし……
佳麗さん、まさか受かるとは思ってなかったっていうのは、本当の本当に本心なのかな?
それは本当としても、俺が受かることを『期待』はしてたんじゃないかなあ?
だって、俺の気持ちは……
俺がドスケベパワーで強くなること、あんなプレゼントされたらやる気出すことぐらいは、
賢い佳麗さんならわかっていたはずだ。
「さてと、じゃあ早速……」
俺は寝室の方を顧みた。
「えっ、も、もう?! ちょっと待ってくれっ、卒業式までは待ってくれよっ、
たかだか半月後だし、ここ9ヶ月は中の人だったお前が出る方がしっくりくるだろっ」
「だーめ。約束は、『受かったら元に戻ること』でーす」
「この偏屈ヤロー!」
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