第13話 高校の文化祭に来てよ!

それでも、成果はあった。

佳麗さんはよほど楽しかったと見えて、

夏休みのうちに、他の4校のオープンキャンパスに快くついてきてくれたのだ。


そこで俺は、2学期が始まるとすぐに次の一手を打つことにした。

「ねえ、今度3人でうちの高校の文化祭、来てよ」

「そうだな。あの高校が嫌いな佳麗も、客として行くならいいだろ?」

「まあ、気晴らしになるし、いいけど……何やるん?」

「メイド喫茶だよ」

「メイド喫茶!」

佳麗さんは盛大に吹き出した。

「どう考えてもお前の提案じゃんよ! よく通ったなそんなの!」

「だ、だって、みんな受験前でやる気なくて、何も提案しないし!

だったら俺がやりたいの言ったって、いいじゃん!」

「まあ、押し付けてないんならいいけどさ。

俺にはありありと見えるなあ……衣装のデザインに物凄い拘りを見せたり、

舞華や小夜里の採寸をニヤニヤしながらやってたりするお前の姿が……」

ぎくり。

「だ、だけど先生からは積極的なリーダー扱いなんだからね!」

「ドスケベパワーでね。

それに、中身は6歳上なんだから、リーダーシップ取れて当たり前だろ」

相変わらず生意気な奴だが、来てくれるならよしとせねば。

見せておきたいものがあるからな。


「ご主人様3名様ご来店でーす」

おっ、来なすったな。

俺達はすかさず接客についた。

「おお、きみたちがよく話に出てくる舞華ちゃんと小夜里ちゃんだね。

どうだい、うちの佳麗は学校では?」

お父様が水を向けると、小夜里ちゃんが満面の笑みで言った。

「はい、とてもいい友達ですよ、

綺麗なのは前からだけど、最近リーダーシップがあって優しいし!」

あまりにも忌憚のない意見に、俺とご両親は吹き出しそうになり、佳麗さんはムッとした。

舞華ちゃんも笑顔で続ける。

「それに、記憶を失ったぶんを取り戻そうと、勉強熱心なんです。

大好きな合コンや夜遊びもせずに頑張る佳麗の姿を見てたら、

私達も頑張らなきゃって思うようになって、同じ所目指そうかなって思ってるんです」

「ま、マジで……そんなに仲いいんだ……」

見たか。

彼女達は、その場限りの利害関係で終わるような相手じゃないんだぞ。


「あっ、いかんいかん、食事を頼まないとな。

じゃあ、コーヒーとサンドイッチを3つずつ」

「はあーい。……ご主人様からコーヒーとサンドイッチ3つオーダー入りましたー!」

俺は厨房に向かって大声を出した。

「了解ー。佳麗のご両親と親戚のお兄さんかあ。気合い入れて作らないとね!」

厨房から亜美と千歌が、にこやかに顔を出した。

それを見た佳麗さんは、あんぐり口を空けていた。

どうだ。

彼女らもこちらの態度次第では話せる相手なのが、よくわかっただろう。

よし、目的達成……


「ふうん、これが噂の、佳麗のお世話になってる親戚のお兄さんかあ……

私、沖津舞華っていうんですけど……

お兄さんって彼女さんとかいらっしゃるんですかぁ?」

……あっ、あれっ?

舞華ちゃんがやたら艶っぽくなってる!

しまった……中身が佳麗さんという印象が強すぎてすっかり忘れてたけど……

今の『江波湊』って……なかなかのイケメンなんだった!

「私ぃ、歳上の男の人、好きなんですよぉ」

舞華ちゃんはさりげなく『江波湊』の二の腕にその豊かな胸を触れさせた。

「あっ、あのっ、えっと……」

しどろもどろなのは、仮にも友人だった舞華ちゃんの変貌に驚いているのか、

それとも……まさか。

俺は慌てて『江波湊』の下半身に視線を走らせた

……よかった、今のところ外からわかるほどの形状の変化はないようだ。

しかし、そこはやっぱり俺の身体。

佳麗さんの視線が下がり、表情がやや雄っぽくなってきた

……まずい、まずいぞ!

「ダメダメ、湊兄ちゃんには歳上の好きな人がいるんだから」

「なぁんだ、そうなんですね」

あっぶねー!


案の定、家に帰るやいなや、俺は佳麗さんに雷を落とされた。

「仮にも友達に欲情するとか、どうなってんだよお前の身体!」

「ご、ごめん、これは俺っていうより男だから、っていうか……」

「……でも、俺のアンダーパンツ見た時ほどじゃ、なかったな……」

佳麗さんはポツリと言った。

「お前って、いい女なら誰でも同じぐらい大好きなドスケベで、

俺が人生で一番好みだなんて、正直テキトーに言ったお世辞だと思ってたけど、

そうじゃないんだなって、ちょっと見直したよ」

「へへっ、俺はドスケベのプライドにかけて、そっちに関しては嘘はつかないよ?」

「なんだよ、そのプライド」

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