第12話 オープンキャンパスに行こう!

こうして、浦沢一家と俺の、奇妙な同居生活が始まった。

周りには、今の家は大規模な内装修理をするので、

家族ぐるみでお金持ちの親戚のお兄ちゃんの家に世話になる、と大嘘をついた。

佳麗さんが仕事をしているのと同じ部屋で、俺はお母様に勉強を教わる。


四六時中見張られている佳麗さんはたいそう息苦しそうで

(物理的にも4人だとさすがにちょっと狭いし)、

いくらこいつでも、ちょっと気の毒になってきた。

「たまにはちょっと、遠くに出かけようか」

「えっ、夜遊び夜遊び?」

「まさか。オープンキャンパスだよ」

「なんでい、大学の見学じゃねーか」

佳麗さんの男喋り、最初はただただ幻滅したけど、

慣れてくると、なんだか一生懸命ワルぶってる感じでかわいく思えてきた。

「じゃあ、俺が受かったら、行ったこともない大学にいきなり行く気?」

「なんだよ、受かる気かよ」

「俺が馬鹿だからって言いたいんだろうけどさ、

センター試験を運だけで受かる可能性もあんじゃん」

「あっ、そうか……ちぇっ、わかったよ」

「よしよし、なんか色々やってるらしいけど、今回は息抜きだし

講義とかはやめとこっか、スタンプラリーにしよう」

「へえ、そんなのがあるんだ……」

「お母さんもついていくからねっ」

「まあまあ、お母様、逃亡が心配なのはわかりますがこれは息抜きなんですから。

ここは俺らを遠くから監視する形で、ひとつ」

「仕方ないわねえ」


といっても、大学に入る時は3人一緒だ。

お手伝いの在校生らしき爽やかなお兄さんは、迷わず高校生の姿の俺だけにスタンプラリーの用紙を手渡したので、俺はすかさず言った。

「あっ、すみません、お兄ちゃんも浪人してるけど、受験生なんですー」

「それは失礼いたしました!」


「くそっ、なんだよ浪人生って……」

通う人間が貰わなきゃ意味ないでしょーが。

「全部集めたら記念品プレゼントかあ。

 順番とかないなら、まずは『学食を食べよう』からやろうよ」

「いいね!」

久々のお出かけらしいお出かけだからなのか、いい笑顔すんなあ……

俺の顔のくせに。


「あれっ、随分安いね」

「学食ってこんなもんじゃん……ああそうか、海浜高校にはパンの購買しかないもんね」

佳麗さんはハンバーグ定食、俺はカルボナーラを頼んだ。

「なにこれ? レストラン並にうまくね?」

「そりゃ世の中、学食で人集めしてる大学も多いぐらいだし」


この後も佳麗さんは、図書館の大きさや購買のコンビニ並の品揃えに

感嘆の声を上げていた。

うんうん、これでよし。

俺が受かって元に戻ったところで、約束だからという気持ちだけで大学に通われては意味がない。

やっぱり、元の身体ならではの楽しさを少しは感じて貰いたかった。

そうでないと、こいつは戻っても他の男と頭を打とうとしかねない。


「さてと、最後は……見晴らしスポットに行こう、か……」

階段で屋上に上がる。


すると、いきなり風が吹いてきた。

「うわっ!」

俺が清楚を気取って着て来た、白地に緑の刺繍が入った

ワンピースがおもいっきりまくれた。


「……見えちゃった?」

「べっ、別に……アンダーパンツだし……」

そう言いながらも佳麗さんは、やたらそわそわしていた。

様子がおかしいと思って凝視して、度肝を抜かれた。

ズボンがおもいっきり盛り上がっている。

「くそっ、なっ、なんで……俺の元の身体を相手に……たかがアンダーパンツなのに……

こ、これはお前になってからは何もしてないから……溜まってただけなんだからなっ!」


「それにしたってちょっと尋常じゃない角度だよ。

ふむ……もしかしたら江波湊の身体は、中身が誰であろうとも、

浦沢佳麗の身体を求めるように、できているのかもしれないね」

「なっ、なに言ってんだよっ、そんなわけないだろっ」

「そうかな? 人間の本体は心だって言うけど、身体に刻まれたものだってあるでしょ。

例えば今の佳麗さんがアルコール平気で飲めるのだって、俺の身体だからだろうし。

俺、実はこっそり佳麗さんのチューハイ失敬したことあるんだけど、

半分で頭痛くなってびっくりしたもん」

「……うーん……」


「俺さ、佳麗さんって今まで出会った人間の中で一番、性格悪いと思うけどさ」

「うるせー」

「……でも、悔しいけど、

 やっぱり見た目は今まで出会った人間の中で、ダントツで一番好み」

「……えっ」

「佳麗さんを初めて見た瞬間、今までにない感覚になったよ。

全身に刻まれたDNAに、この娘と子供を作りなさいと命令されてるみたいだった。

実際身体を重ねてみても、全細胞が目覚めていくのがわかるほど気持ちよかった

……だからさ、佳麗さんは、ヒトの見た目と内面を分けて考えられないなんて馬鹿だ、って言うけどさ、

見た目がドンピシャな相手に中身も期待しちゃう気持ちも、ちょっとはわかってよ。

そこまで惹かれるような相手なんだから、

できれば中身も含めて好きになりたいんだよ、なりたかったんだよ……」

「そっか……なんかごめんね、こんな性格で……」

「いや、いいんだ。俺が幻想を押し付けてうんざりさせてるのも、わかってる」

佳麗さんがこんなに紅くなって、しおらしいことを言うなんて……


と、しばし感動していると、彼女は何やらモゾモゾしながら俺の方をチラリと見た。

「あれっ、その快感に興味持っちゃった? 俺はいつでも大歓迎だよ?」

「やだよ、今戻っても、俺は何も得しないもん……くそっ」

佳麗さんはトイレに走っていった。

俺のDNA、恐るべし。

ああ、なのにどうして俺は、俺の身体が盛大に男を発揮してても全くの平常心なんだ。

つまり、佳麗さんのDNAは俺のこと全く好みじゃなくて、

彼女は本当に入れ替わる為だけに俺と身体を重ねたのだ

……哀しいな。

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