第10話 入れ替わりのからくり

……って、あれっ、誰だこのイケメン。

茶髪で軽くパーマをあてて、アイドルグループのちゃらいメンバーみたいだ。

「な、なんでお前、ここに……」

ああ、よく見たらしっかりラクダ顔してるから、紛れもなく俺だわ。

2ヶ月で随分雰囲気が変わったなあ。

しかし、佳麗さんは俺の顔を見るなり、ドアを閉めようとした。

ーやっぱり身体返すつもりないんだ!

でも、母に嘘をついてまで(本当のことの方が嘘みたいだけど)

ここまで来た以上、逃すわけにはいかなかった。

しかし今や、相手は男、俺は女の子の身体である。

ドアは虚しくも内側に戻されて行ったー


と思ったその時、ドアが一気に外側に開いた。

……お父様とお母様だ!


「佳麗、こんな所にいたのね」

「ご、ごめんなさ……」

お母様の責める口調に、反射的に謝罪の言葉が出かけたが、

彼女の瞳は、佳麗さんの入った俺の方をまっすぐ見据えていた。


「うちの娘が迷惑かけたね、江波くん」

お父様は俺の肩に優しく手を置いた。

「あの、教師が何より大嫌いな佳麗が、先生に会いにいくなんて言いだすなんて、

いくら記憶がなくなったからっておかしいと思ったんだよ、まるで別人だなって。

だから尾けてきたら腑に落ちたよ、やっぱり本当に別人で、

江波くんにしてみれば記憶をなくしたことにせざるを得ない状況だったんだな」

「そ、それにしてもなんで入れ替わったって所にまでー」


「そりゃわかるさ。

性的に身体を重ねた状態で頭を打ったら、中身が入れ替わる、ということを

佳麗に教えたのは、私達だからな」


「えっ!」

そんなからくりだったのか。

「でも私達は、佳麗は昔から夜遊びが酷かったが、

18歳になったら本格的に男と身体を重ねるようになった様子が見受けられたから、

せめてそんなことにはならないように気をつけるんだよ、という意味で言ったんだ。

私達も体感したことだからな……ゲフンゲフン。

しかし、まさかそれを悪用して他人様の身体を乗っ取って逃げ出すとはな

……私達はまだまだ親バカで、我が娘の腐り具合を侮っていたようだ、

何も知らない江波くんには、本当に申し訳ないことをした」

ご両親は俺に、膝をついて頭を下げた。

「そ、そんな、ご両親が謝ることじゃありませんよ。

誰だってこんな娘が、そんな大それたことするなんて思いませんって」


「ふんっ、お前、未だにヒトを見た目で判断してるんだ」

佳麗さんが初めて口を開いた。

「クラブに来る清楚っぽい女の子なんて、

それが男に一番モテて大事にされるから、そうしてるだけに決まってるだろ。

こんな目に遭ってもまだそんなこと言ってる馬鹿は、騙されて当然だね」

「佳麗、なんだその言い草は!」

「なんだよ、お父さんだって言ってただろ、

『加害者が一番悪いのは勿論だが、自衛を学ばない人間も悪い』って」

佳麗さん、すっかり男の話し方になって……適応しちゃってるんだな。

「それは加害者の言えることじゃない!

とにかく、ここで立ち話もなんだから、とりあえず中に入れてくれ」


佳麗さんの入った俺は、高そうなパソコンのある、

ビジネスマン風の広くて洒落た部屋を自分の城にしていた。

「お、俺の貯金……」

「お前、ほんと馬鹿だな。暗証番号がわからないのに、おろせるかよ」

佳麗さんが見せてきた俺の通帳の数字は、たしかに全く減っていなかった。

「そ、それもそうだね……」

「まあ、財布の中身は株とか転売で、資本金作るのに使わせてもらったけど、

ちゃんと元はとれてるから安心しな」

佳麗さんは俺のとは別の通帳を見せてきた。

「えっ……ひゃ、ひゃくまんえん? そういう商売だけで、2ヶ月で……?」

「最近はネットでデータ入力らテープ起こしやWEBライターもやってるよ。

俺は作業が早くて正確なんだってさ、ひひひひ。

やっぱり、頭さえ良ければ高校生でも稼げるんだよねえ。

なのに社会人になる練習〜って高校に行くなんて、馬鹿らしいよ」

「そ、そりゃ能力があれば何歳でも稼げるよ?

でもさ、逆に言えば佳麗さんなら稼ぐことはいつでもできるんだから、

今しか行けない高校に行った方が、人生、得だと思わないの……?」

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