第9話 浦沢佳麗を探しに実家へ
そして、2ヶ月も警察からもお隣さんからも『江波』についての情報がなかったことで、
俺の頭にはある疑念が浮かんできていた。
これはもう、俺になった佳麗さんは、恣意的に足取りを消したとしか思えない。
小夜里ちゃんが言った時は、まさかと思ったけど……
佳麗さんのスマホのデータを消したのは、本当に俺になった佳麗さんなのではないか?
そして、彼女は俺の身体を返す気はさらさらないのではないか?
なんでこんなに可憐な美少女の身体を捨てて、
ラクダ顔のニート男であり続けたいのかはわからないが……
ということは、自主的に俺になった佳麗さんを探しに行かないといけないな。
最近ご両親にも素行を褒められるようになって、俺の方がこの家の娘にも女子高生にも向いてるんじゃないかとも思うが、
やっぱりご両親としては、頭のいい本物の佳麗さんが悔い改めてくれればそれが一番だろう。
しかし、どうやって探したものか……
頭を捻らせていると、ふと妙案が浮かんだ。
俺の本当の両親が何かを知っているかも。
彼らは元の俺の部屋から二駅分の近距離に住んでいて、一週間に一度ほど、俺に電話をかけてくる。
そんな心配性なのだから、俺と連絡がつかなくなったらもうとっくに騒ぎ立てて、
警察を通じて、江波という名前を出した浦沢佳麗、
つまり今の俺に話を聞こうとしているはずなのだ。
でもそうなっていないということは、俺になった佳麗さんは、
俺の両親が騒ぎ立てて目立つリスクを恐れて、素直に連絡を取っている可能性が高い。
しかし、実家の電話番号もやはり失念している……
よし、アポなしはよくないが仕方がない、両親に直接会いに行こう。
しかし、ご両親には何と言って出かけたものか……
どこか遊びに行くって言ったら夜まで遊ぶって疑われそうだし、
友達の家に行くって言ったって、友達はあの二人しかいないってのを
ご両親も熟知してるからバレそうだ……
そうだっ!
「ねえ、小学校時代の先生の家に遊びに行ってもいい?」
ご両親は当惑と煩悶の表情を見せたが、
「おお、そんな昔からの交流が細々とあったのか、意外だがいいことだな。
よし、行ってきなさい、遅くなるなら連絡しなさいよ」
意外にもあっさりお許しが出た。
実家に帰るのは3ヶ月ぶりぐらいなのに、妙に懐かしかった。
俺の部屋や浦沢家と同じ市内とは思えないほど、のどかだ。
ああ、俺が出て行ってから、家庭菜園とお花が一気に充実したんだよなあ……
俺が毎日のように乗ってた庭ブランコ、ボロくなってるけどまだあるんだ……
いやいや、郷愁に浸っている場合ではない。
今日の俺、いや私は、この家に初めて来たお客さん、お客さん。
ピンポーン
「はあーい」
佳麗さんのお母様のような美人じゃないけど、安心できる安心できる我が母の顔。
「あの……私、浦沢佳麗っていって……湊さんの彼女なんです」
「まあ、こんなに可愛くて若い娘がうちの湊と? だ、大丈夫なの?」
「はい、私18歳なので……
で、将来の約束をするような仲だったので、ご実家の場所も教えてもらってたんです。
なのに湊さん、私に何も言わないで引っ越しちゃったんですよ!」
俺が一世一代の半泣きハッタリ演技をかますと、純真なる母は目を丸くした。
「まあ、振られたんだろうな……とは思いますけど、
そんな仲だったんだから最後ぐらいはちゃんと話し合いたいじゃないですか……
だから湊さんの居場所ご存知だったら……教えてくださいませんか?」
「ああ、だから湊、2ヶ月前に急に引越しの連絡をよこしたのね……
リストラされたからだと思ってたけど、
あなたの何かが嫌になって離れたくて、というのもあったのかなあ。
でも、どんな理由だとしても、話し合わないで逃げるのはよくないわよね。
こんないたいけな女の子を思い悩ませるなんて、何やってんだかうちのバカ息子は……
よし、教えてあげるわ」
母が教えてくれた俺……になった佳麗さんの新居は、実家から更に3駅向こうだった。
よかったあ、追いかけるのが困難なぐらいに遠くに行くほどの度胸がなくて!
やっぱり中身は高校生の女の子なんだなあ。
「よく見るとあなた、醸し出す雰囲気が湊に似ているわね。
うん、付き合ってるっていうの、なんだかわかる気がするわあ」
そりゃ、中身は本人だからねえ……さすがに親は鋭いや。
「ラビッツマンション……あっ、ここだな」
うわっ、なんてハイセンスで白が眩しいマンションなんだ!
こんなところに住んでたら、僅かばかりの俺の貯金、もうだいぶ消えてるんじゃ……
くそっ、他人の金だと思っていいとこ住みやがって。
ピンポーン。
「湊ー、メロン持ってきたわよ」
俺は子供時代からの得意技である、母の声真似をした。
今は女性の声帯を持っているぶん、更に近づけられた気がした。
佳麗さんもすっかり騙されたのか、ガチャリとドアの開く音がした。
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