第8話 内面を認められたい

「先生ひどいよね! あんな脅しみたいなことしてさ!」

「ま、まあ……誰かやらなきゃいけないし、ね……」

ゲンキンなもので、あんなに腹を立てていたのに、

実際に応援合戦の練習が始まると、俺はすぐに機嫌を直していた。

曲はDA PUMPの「U.S.A」。

衣装は、団長の俺がボーカルISSAに寄せた、王子様風のもの……

青組だからインナーを赤から青に変えたけど。

チアリーダーの衣装は、どのメンバーの真似でもないが、どうせならチアリーダーらしいものがいいだろうと俺がごり押しして、

青色も表現できる星条旗のノースリミニスカ衣装になった。

各学年のチアリーダーは団長を取り囲む形になるので、かわいこちゃんを侍らせてるみたいでとても気持ちがいい。

特に三年生のチアリーダーは団長の脇を固める決まりだから、サビの「いいねダンス」で、親指を立てながらジャンプをする時なんか、

俺は真横で舞華ちゃんのお山がダンスで縦横無尽に揺れるのを拝めるというわけだ。


「ちょっとー、佳麗、また舞華の方ばっかり見てるー」

「ご、ごめん……」

小夜里ちゃんも可愛いしいい娘なんだけどなあ……どうしてもね。

でも、俺の欲でグループの友情を壊しては佳麗さんに悪い。

そこで俺は小夜里ちゃんのチアガール姿に目を走らせ……

彼女のくびれが半端ないことに気がついた。

おかげで二人を見る回数に偏りがなくなった……って解決方法も最低だな、俺。


他のみんなには、ダンサーメンバー6人の個性的な衣装の中から、青組ということで、青のジャケットとTシャツが一体化した衣装を選んだ。

亜美と千歌は、

「うわー、なによあんたら、団長とチアにさせられたのが嫌だからって

衣装で嫌がらせしてくんの、やめてよー」

なんて嫌がっていたが、大半は面白がっており、好評だった。

フリと曲も面白いので我々3組軍のボルテージは高く、なんと優勝までこぎつけた。


「浦沢お前、意外にリーダーシップがあって団長向きだったんだな。

恥ずかしがらずに大きなフリのダンスはするし、迫力のある声は出すし……

先生、びっくりしちゃったぞ」

そりゃ男だし、一応歳上ですからねえ……

「他の局面……例えば文化祭なんかでもクラスを引っ張っていってくれないか?」

「とんでもない! これからは記憶喪失を取り戻すために勉強に集中させてください!」

正直、ここまで頑張れたのは下心パワーもあるしなあ。

「そうだなあ……さすがに30点台連発はきついよなあ……」


俺の団長姿は後輩たちからも好評だった。

「凄いじゃん佳麗、本当にISSAみたいにモテてるよ」

舞華ちゃんと小夜里ちゃんは自分のことのように喜んでくれた。

あーあ、でもこの体じゃ、精神的には嬉しくても……なあ。

ま、本当に男だったらここは共学になる訳だから、俺はまた他の男に負け、こんな可愛い女子達に相手にされない男に逆戻りか。

こうしてニヤニヤできるだけでも幸せだと思おう。


入れ替わってから2ヶ月が経ち、今日で1学期も終わり。通信簿が配られた。

成績は悲惨の一言だったが、それでも専業主婦のお母様が勉強を教えてくれた

(塾だとご両親が夜遊びを心配するから)成果か、50点台を取れるようになってきた。

さすが佳麗さんのお母様だ。


「浦沢! 成績はまあ、あれだが、事情が事情だし、落ち込むことはないぞ。

それより何より、素行が良くなってリーダーシップを発揮したことが先生は嬉しい。

人間的な成長は大切だからな」

自分自身を認めてもらった気がして、俺は嬉しかった。

「佳麗、ほんとに変わったよねー」

小夜里ちゃんが言った。

「そうそう、前までは私達のこと見下してる節があったのに、優しくなった!」

舞華ちゃんも頷く。

おいおい、こんな娘達を見下すなんて、佳麗さんて……


家に帰って過去の通信簿を見ると、成績は良かったが、たしかに備考欄は、

夜遊びがひどい、協調性に欠ける、口が悪い、などと散々な書かれようで、いいことが書かれたのは今回が初めてだった。

よほど褒めるべき内面がなかったことが伺えた。

ああ、たしかにこいつなら、亜美と千歌が「机を彫ったのは、浦沢自身です!」

って言ったら、先生が信じちゃうのも無理ないな。


その亜美と千歌ですら、浦沢佳麗が最近めっきり真面目になったと見ると、

いじめてこなくなったばかりか過去の行いを謝ってきた。

やはり本当に佳麗さんの内面が嫌で仕方なかったのだろう。

しかし、どうして……

ちょっと行動さえ改めれば絶賛される頭脳と容姿の持ち主でありながら、

彼女はこうも荒れ果ててしまったのだろう?

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