第5話 浦沢佳麗はいじめられている

その理由は、実際にその席についてみてすぐにわかった。

机に彫刻刀で、『ビッチ』『ブス』『死ね』などと沢山の暴言が彫られていたのだ。

「なにこれ……?」

俺が思わずこう漏らすと、舞華ちゃんと小夜里ちゃんは言葉に詰まっていた。

まあ、こんなことする奴に言及するのは、こんな女の子達にとってはそりゃ怖かろう。


そこで俺は、入ってきた先生に早速言った。

「先生ー、机がこんなになってたんですけど。替えていただけます?」

「ああ、それはお前が自分でやったんだろ?」

「えっ、そんなわけないでしょう」

「記憶をなくしたのに、そんなわけがないと何をもって言い切れるのかね」

「そ、それは……」

「いくら替えてやっても、何度もやるんだからこっちもキリがないんだよ。

ほれ、いつもと同じように机用マットを貸してやる。これで勉強できるだろ」


たしかに物理的にはさして問題はないが、勉強の難しさも相まって気分が悪かった。

ほんの6年前だからと高をくくっていたけれど……

やばい、ここ、俺の高校時代より、使ってる教科書からしてレベルが高いぞ。


ようやく休み時間がやってきた。

「ねえ、私、本当に自分で自分の机に悪口掘ってるの?」

「そ、それは……」

舞華ちゃんと小夜里ちゃんの反応で、今度こそ確信した。

これは間違いなく誰かにやられてるな。

「そっか……じゃあ自腹で新しい机にしてみて、

誰がやってるか突き止めるために、こっそり監視カメラでも仕掛けちゃおうかなー」

俺が揺さぶりをかけると、ぽっちゃり女子とのっぽキツネ目女子の二人組が

鬼の形相で俺の方へ向かってきた。

クラスメイトを早く覚えようと、

出席の挨拶を目と耳を研ぎ澄ませて聞いていたからすぐわかる、

ぽっちゃりの方が洲渕亜美、のっぽキツネの方が浜添千歌だ。

「なによ、わかってるくせに! あんたのそういう小賢しいところ、大嫌い!

どうせ記憶喪失なんてのも、男遊び誤魔化して同情してもらいたいだけの嘘でしょ!」

「まだうちらの恐さがわかっていないようね!」

二人がとびかかってきた。

フッ、クラスではガタイがいい方とはいえ、女子は女子。

俺の相手じゃないぜー


と思いきや、俺はあっさり床に倒された。

そうだった、俺は今、全く筋肉も重量もない、可憐な美少女なのだ。

「立ち向かおうとするなんてナマイキじゃーん。あんたなんて、こうしてやるっ!」

二人は俺の顔をグリグリ踏みつけ始めた。

最初は痛みと屈辱しかなかったが、しばらくするとそれが快感になってきた。

洲渕亜美の動く毎に肉がたぷんたぷんと揺れる脚と、

浜添千歌の引き締まった美脚をこんなに目の前で堪能できるなんて。

ん、まてよ、片足で踏みつけてるってことは、今……

ええい、こんな目に遭っているんだ、これぐらいの役得はあっていいはずだっ!

俺は思い切って顔の向きを変え、

案の定大きく広がった二人のスカートの中を覗き込んだ。

ちぇっ、さすがに二人ともアンダーパンツ履いてるか……

で、でもよく見るとこれもこれで……

洲渕亜美の食欲に負けたポッコリお腹、

太もものムッチリとした食い込み具合は下世話で堪らないし、

浜添千歌は逆に痩せているからブカブカで、アンダーパンツの隙間から、

ほ、本物のパンツのレース部分が……

や、やばい、は、鼻血が……

「ちょ、ちょっと、ヤバいよこいつ、うちらのスカートの中見て鼻血出してるよ?!」

「えっ、マジ?! 気持ちわるーい!」

ちぇっ、バレたか……

「なんか……本当に記憶喪失なのかな、別人みたいになっちゃったね……」

「でもさ、気持ち悪いけどいつもの口悪いのより はマシなんじゃない……?」

二人はドン引きしながら離れていった。


「佳麗、大丈夫?!」

「さすが佳麗、気持ち悪がらせて追い払う作戦なんて、高度だねえ」

舞華ちゃんと小夜里ちゃんが駆け寄ってきた。

「大丈夫だよ。

……ね、ねえ、私って普段、どんな感じなの?

気持ち悪い方がマシなんて言われちゃうほど、口が悪いの?」

「そんなことないよ。あいつらなら言われて当然のこと言ってるだけ。

あいつらに机彫られた時に、『その顔でよく私の机にブスって掘れるよねー』とか、

『ビッチって言うけどさ、男に相手されない奴らが僻んでるだけだよねー』とかね」

わ、わあお……佳麗さんて思ったより、口悪い……

たしかにあの二人はクラスの中では可愛い方ではないから、

虐められた佳麗さんがそう言いたくなる気持ちもわかるけど、

俺ならあの二人、充分イケるのにな……

と思うのはやっぱり、飢えた歳上男の目線だろうか。

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