第3話 彼女の名は浦沢佳麗
いよいよ困った俺は、近くの交番に助けを求めた。
「すみません……あのう、私……
江波湊さんて男性とHotel ローズクイーンに入ったのは覚えてるんですが、
そこで頭打っちゃいまして、目が覚めたら江波さんがいなくて、
江波さんの家に行ったら彼は荷物を持って出て行った後で
……そ、そのう、自分がどこの誰なのかの記憶がなくなってて……」
入れ替わっただなんて言っても取り合ってもらえないのは
目に見えているので、こう言うしかなかった。
「Hotel ローズクイーン?」
おまわりさんは怪訝そうな顔をした。
「そりゃ、いかがわしいことをするホテルじゃないか。
その江波って奴に酔わされたか、クスリでも盛られたんじゃないだろうね?」
「そんなことありませんよ!」
自分を侮辱された気がして俺は憤慨したが、
抵抗虚しくアルコールと薬物のチェックをされた。
「ああ、ごめんごめん、そっちはなんともなかったね、本当に記憶喪失みたいだね。
中には大して信頼関係もない男にホイホイついていく女の子もいるから、ついね。
でも、女の子を置いてホテルを出ちゃうあたり、
江波ってのはやっぱりひどい男だよ、付き合う相手はちゃんと選びなさいね」
またも謂れなき俺の悪口が……
「まあ、江波って奴は怪しいから、足取りは追いかけておくよ」
怪しいと言われるのは不服だが、探してくれるのはありがたい。
「そして、きみの素性については、ほぼ心配しなくていい。
きみを探しているご両親らしき被害届が既に……」
「カレー!」
彼女をそのまま40代にしたようなエレガントな女性が、俺に抱きついてきた。
「あんた、また男と遊んで! だから危ないからやめろって言ったのよ!」
ま、また……?
そ、そうだよな……こんな美人が、こんな俺に一目惚れなんてうまい話があるわけない……
清楚に見えても、経験があまりないように振る舞っていても、男好きに決まってる……
美人に対して、俺だけの天使であれ、なんて言えるのは、よほどのいい男だけだ。
浮かれた自分が恥ずかしい。
「でも、無事で良かった!」
「あっ、あのっ、私って、カレーって名前なん……ですか?」
ま、まさか、とんだキラキラネームとはね……
「やだ、本当に記憶喪失なのね! そうよ、あなたはこういう名前なの」
お母様は手元にあったメモ帳に綺麗な文字で、
浦沢佳麗
と書いた。
佳人の佳に、麗人の麗か……
キラキラネームどころかとても素敵で、この娘にピッタリな名前じゃないか。
「というか、記憶喪失でも、学生手帳は見つからなかったの?」
「が、学生手帳?!
鞄の中ひっくり返して身分のわかりそうなもの探したけど、そんなのなかったよ」
「あらやだ、まさかその江波って男が持っていったのかしら」
俺の風評被害がスゴイんじゃ!
「あっ、あのう、学生手帳って……私って今……いくつなの?」
未成年淫行、という最悪のワードが頭を過ぎった。
「18歳の高校三年生よ」
危なかったああああ!
めっちゃギリギリセーーフ!
今は5月だから、誕生日早い娘なんだな。
すっぴんを見た時もしやとは思ったが、化粧をされると本当に大人と見分けがつかないな。
「本当に記憶喪失なのかねえ?」
お父様は厳しい顔をしていた。
「男との夜遊びを追及されたくなくて適当なこと言ってんじゃないのか?
まあいい。本当だとしても、そうなったのは夜遊びした自業自得なんだから、
明日はちゃんと学校行きなさいよ」
「はあーい」
「ん? やけに素直じゃないか」
実際、明日から高校に行くというのは悪くない。
入れ替わらなかったら明日からニートとして苦悶の日々を過ごしていただろうし、
この状態で一日休んで家にいたとしても、よけいなことばかり考えて鬱々としそうだ。
どうせ佳麗さんの入った俺の情報は、そのうち隣の部屋の人か警察がくれるだろうし、
だったら慣れなくても高校に行って、今のうちに女子高生をたっくさん眺めておこう。
車に乗ると、お父様はテレビのチャンネルを回し始めた。
「ほれ、お前の好きなフロックの引地さんが出てるぞ」
「えっ……私って引地さん好きなの……」
炎上芸人じゃねーか。
「あっ、本当に記憶なくしてるみたいだな。疑って悪かったよ」
そんなに熱烈なファンなんだ。
男遊びが激しいのと言い、佳麗さんって随分、見た目とイメージ違うよな……
まあ、そんな娘だからこそ俺なんかと気軽に……してくれたんだろうけどさ……
もう二度とあんな綺麗な娘とは……できないよなあ。
あの時の快感を思い出して、胸が熱くなった。
脚と脚の間は、残念ながらあの時とは違う形で熱くなった。
佳麗さんの部屋は、白を基調として薄い青や緑の刺繍が入った
まさに清潔感溢れるインテリアが多くて、俺はまた彼女のことがわからなくなった。
(よし、俺はこの身体でいる間は、この容姿とお部屋に似合う行動を心掛けよう!)
今までの佳麗さんと同じように夜遊びをして、
俺のような男に夢を配りまくるという生き方も考えなくはなかったが、
理想の美少女の容姿を手に入れた以上は、理想の美少女の内面を演じて、
アイドル女優的な存在になってみたかった。
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