幼馴染は一人暮らしを謳歌しながら外堀を埋めてくる件

クロエ

第1話 幼馴染との日常

 幼馴染の口癖はいつも同じだった。高校を卒業したら一人暮らしがしたい。耳にタコが何百個もできるくらいに聞かされていたが、


「生活能力を授かってからな」


 俺は幼馴染に同じ様に繰り返す。だが、高校を卒業して同じ大学に通う事になった俺達は何故か高校以上に一緒に居た。


「良吾さん、映画でも一緒に堪能しませんか?我が家で......我が家でね?」


 俺の幼馴染である有原琴奈は今日も誘ってくる。別に良いけど、毎日は少し疲れる。だがそれは喉に押し殺していつも一緒に帰る。


「ホラー映画が見たいかも」

「え! 別に......良いよ」

「最近流行ってる樹海かくれんぼ2がいいかな」

「前作って知らないよね、僕達」


 最近配信サイトに出た樹海かくれんぼ2の前作を見ていないのは知っている。それに琴奈がホラー映画を拒絶しているのも知っている。


「今昼だから......夕方まで見ような」


 少しばかりの嫌がらせは最上級の鞭だったらしい。表情は戸惑いを隠せているが、仕草は全く隠せていない。Tシャツの端を摘んで少し震えている。


「ごめん、冗談だよ」

「別に良いけど、それに最近見たいと思ってたから有難いかな」


 引けない場所まで勝手に行っていたらしい。ここで俺が舵を切っても琴奈は靡かないのでここは従おう。


「じゃあ、コンビニで何か買うか」

「そうだね」


 俺達はコンビニで飲食類を買い揃えて琴奈のマンションに向かった。女子一人暮らしを心配した有原家は市内でも指折りのセキュリティを有した一室を借りたらしい。初めて見た時は、驚きで少し羨ましかった。


「どうぞ、我が家に」

「お邪魔します」

「ソファーに座っていてよ。先に洗濯物終わらせるから」


 琴奈は高校までは生活能力皆無だったが、一人暮らしをしたい願望から頑張ったらしい。だが、料理は勉強中でコンビニ弁当が多かった時に、「俺が手伝うよ」と言ってしまい今では俺が作り置きをしている。


「テレビのリモコンは......あった」


 俺は樹海かくれんぼを見れる様にしていると、勝手に広告が流れてしまった。それは怖く作られていた。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 浴室側から悲鳴が聞こえた。怖がりな性格は多分今後も変わらないのであろう。速攻でリビングまで来て俺のほっぺを引っ張っていた。


「何でかな? ビビってないけど不意打ちはずるいよね」

「すまん」

「ちょっと待ってよ。すぐ終わらせるから」


 琴奈は浴室側に戻って数分で洗濯物が稼働する音が聞こえて戻って来た。再度見るかの確認をしたが、野暮だったらしい。


「カーテン閉めて電気消すか?」

「ムードは大切だけどそこまで」

「怖いのか?」

「別に」


 揶揄うのは琴奈の専売だが、今は形勢が逆転している。強がっているが多分今日は怯えながら寝るのだろう。今日は長電話コースだな。


「始めるよ」

「あぁ」


 樹海かくれんぼは一作目は少しコメディ寄りだったので少し笑いながら観ていたが、2はホラー一色だった。監督が変わるとここまで違うだと理解した。


「琴奈? 大丈夫か」

「怖いよ。それに少し部屋が......きゃ!」


 カーテンが揺れただけで怯えて縮こまる琴奈に申し訳ない気持ちでいると、困った提案をしてきた。


「良吾が怖いなら今日は」

「電話だろ」

「違うよ。泊まりなよ」


「泊まる?」


 琴奈は「うん」とでも言いたげな顔だったが、今までは夕方まで一緒にいる事は多々あったが泊まる事は無かった。実際実家は大学から徒歩十分の為このマンションより近い。


「いや遠慮しておく」

「服は一緒に取りに行こう(逃げる可能性を考えて)」

「でも」

「昔はよく泊まっただろ」


 小学生まではお互いの家に泊まる事は偶にあったが、今は違う。泊まる理由は特にないし、ホラー映画を強要した俺も......悪いのか? 、


「心当たりがあるよね?」

「......多少」

「心細い幼馴染を置いて帰る様な男ではないよね」

「(当然帰る予定でしたすいません)」


 少し悩んで......泊まるのか。罪悪感は多少あるが、男女が泊まるとなると......ないか。幼馴染だし、


「分かった。取りに行こうか」

「宜しい。ついでに夜ご飯も買いに行こう」

「だな」


 俺達は準備を整えてマンションを出た。そして徒歩数分の距離にある俺の実家に行き、母さんに事情を説明したら「まぁまぁ」と言われて、服を取り実家を出た。


 スーパーは意外に近いので元々、今日作る予定であったハンバーグの材料を買い足してマンションに戻った。道中は琴奈はキョロキョロしながら周囲を見ていた。


「暗くなったな」

「あぁ、良吾が居て助かるよ」

「それじゃあ先に作るな」


 俺はハンバーグの準備をしようとしたが、何故か真横に琴奈が居る。部屋自体は大きいが台所は別に大きくない。そして、


「あの......動きにくいかな」

「僕の事は某番組のアナウンサーだと思ってくれ」

「分かった。手伝ってくれるか?」

「勿論」


 俺はハンバーグのタネを準備して琴奈にはこねる作業を委託した。焼く作業は蓋をして待つ事が俺流なので、琴奈には先にお風呂に入ってもらう事になったが、


「良吾! 居るよな」

「居るよ」

「驚かす為に帰ってるとか考えてないよな」

「勿論!」

「良吾! (責任とってくれよ)」


 最後だけ名前だけ? よく分からないがハンバーグが完成したタイミングで琴奈も出てきた。黒のジャージを上下、物凄くシンプルだった。だが、琴奈が着るとオシャレに見える。


「どうした?」

「いや、別に」


 黒く輝く綺麗なショート髪、キリッとしたかっこよさと綺麗さを兼ね備えた容姿、モデル級のスタイルに接しやすい性格、今、考えるとよく告白とかされてたな男女両方で、


「(まぁ幼馴染だがら気楽だな)」


 改めて琴奈を見たが、幼馴染以上になりたいかは特には無かった。今の関係が俺達にとってはベストだと思っているから、


「良吾もお風呂どうぞ」

「すまん、借りるわ」

「ゆっくりな」


 俺は浴室に向かった。琴奈の洗濯物を見ない様に風呂に入った。シャワーを浴びて体を綺麗にして、


「ありがとな、お風呂」

「全然、それよりご飯の前にこっち来て」

「あぁ」


 琴奈に呼ばれてソファーに座った。テレビを見る訳ではないが、当然理解している。さっきまで居た琴奈は今は居ない。怯えているのだろう。


「怖いのか」

「別に」

「なら今日は帰」

「良吾は怯えさせた女性をそのまま置いて帰るクソ野郎だったなんてね」

「言い方な!」


 少し話して夜ご飯を食べた。琴奈美味しいに頬張っていた。いつ見ても作り甲斐があるな。だが、一人暮らしをする為に料理くらいは覚えて欲しい。前に、


「琴奈、今日はどうする?」

「あぁ、コンビニ飯かな」

「?」


 この会話が何十回もあり現在では作り置きを1週間ほど用意して夜ご飯だけでも健康な食事してもらっている。


 俺達は少し早いが寝る準備に取り掛かった。琴奈はベット、俺は来客用のマットレスで寝る事にした。偶におばさんが来るらしく寝具はあった。


「少し怖いけどワクワクもするな」

「お泊まりは久しぶりだからな」

「恋バナとかする?」

「嫌、しない」

「ケチ、なら僕はするよ。僕はね大学生になってから数十回程告白やナンパを受けたが、全部断ったし、彼氏はいた事が無い。以上」

「おぉ、そうか」

「モテるって困るよな」

「はいはい俺もモテたいよ」




「良吾は僕にだけモテモテで良くない」


 布団を被って何か言ったと思うが聞こえなかった。それから少し思い出話をして就寝した。時折琴奈が「起きてる?」と話しかけてきたが眠いので無視をした。




 

 

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