34日目 均衡の崩れ〜請求の影〜

在庫/三十四日目・朝


・水:二L(制度上変化なし)

・食:海藻 微量(束×0.05)

・塩:微量

・火:炭片なし/使用不能

・記録具:ペン 使用可

・体調:渇きは和らぐ。しかし胸にひび割れの痛みあり

・所感:制度と現実の齟齬、継続。救いの余韻は消えず


朝。

帳を開くと、数字は昨日と同じままだった。

「水:2L」…変化なし。

だが私の喉は確かに潤っていた。

雨粒は頬を伝い、喉を濡らした。

だが帳には残らなかった。

救いはあった。制度は動かない。

矛盾だけが刻まれている。


観測/三十四日目・午後


・祠:枯死のまま

・潮の人:動作に鈍さ。手の軌跡、乱れ多し

・水面:〇と=、形を保てず

・影:揺らぎ増大。杭より伸びる線は波に消える

・異変:沖に赤の染み。夕陽か血か判別不能


沖に立つ潮の人は、昨日よりも遅く手を振っていた。

水面に描かれた〇と=はほどけ、途切れ、歪んで消える。

影は伸び切り、波に呑まれ、乱れている。


その向こうに赤が滲んでいた。

夕陽の反射だと自分に言い聞かせた。

だが胸の内には、別の言葉が浮かぶ。


「代償を払ったのか」


私は震えた。

ペンを持つ手が止まる。

書けば空白は埋まる。

だが、これは帳に刻んではならぬものではないか。


観測/三十四日目・夜


・星図:光はなお帯を描く。しかし線は歪みあり

・潮の人:〇と=、均衡ならず。途切れ、崩壊

・鳥:来訪なし

・影:杭を超えて四方に散乱


夜。

星々の光は均衡の帯を形づくっているようで、どこか歪んでいた。

潮の人の描く〇と=もまた、形を保てず崩れ、途切れていた。


私は理解した。

昨日の雨は救済だった。

だが救いは長くは続かない。

あれは請求の予告にすぎなかったのだ。


救いは代償に変わる。

請求書は、まだ届いていないだけだ。


在庫/三十四日目・夜

・水:2L(制度上変化なし)

・食:海藻 微量(束×0.02)

・塩:微量

・記録具:ペン 使用可

・所感:救済は請求へ転じる。未払いは膨張

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