8日目半 影の帳 〜監査の独白〜

在庫/八日目・深夜


・水:水筒0.1L/祠の器 3割/臨時器 濁り

・食:海藻 少

・塩:祠の縁 微結晶

・道具:流木4/帆布片1.5/印石19+外印貝2

・記録材:帆布片2/灰/金属片1

・所感:震動後の器濁り続行。眠気つよし、だが夜間観測を強化


風は湿って重く、杭の影が月に食われて揺れていた。


眠気は強いのに、目を閉じれば“—”の線が浮かぶ。

等号ではない、割り切れぬ印。


祠の器を覗く。濁りは落ち着かず、沈んだはずの外印の貝が見えない。

女が器の縁に座り、濡れた髪の筋が月光に浮いていた。

声は出さない。ただ水を撫で、小さな波紋を立てる。

返事とも、偶然ともつかない揺れ。


監査記録/深夜・第一報


・祠:濁り継続/泡小

・臨時器:水位減/濁り強

・灰線:南側 波で消失3歩分

・足跡:外の踵跡、湿砂に固定(消失せず)


帆布に針を通す。だが書き方に迷う。


「外印の者」と記せば存在を肯定する。

「未知の印」とすれば未来の自分が混乱する。


針が止まる。布の端に女が残した血の点がある。

私は写し取り「外印:.」とだけ加えた。

…名前ではなく証拠として、最小限の印。


潮の音に混じり、低い重音が三度響いた。

岩が割れるのか、海底で何かが崩れるのか。

砂の下から鳴ったように胸に直接ぶつかってくる音。


沖に光が浮いた。星の瞬きではない。

赤く揺れ、波間で引き裂かれるように二度、三度と明滅した。

炎か、深海の放電か。

次の瞬間には闇に沈み、跡は残らない。


鳥は沈黙。夜はただ監査に徹せよと告げる。


観測/深夜・第二報


・音:低重音 三度/方角不明

・光:沖合に瞬間光(星図と非一致)

・鳥:鳴き声なし

・杭:揺れ小

・影:輪の外に動く影一(正体不明)


声に出す。


「奪わない。」

「記録する。」

「取引する。」


三つの掟は、夜の砂に吸われた。

その直後、祠の器から泡がひとつだけ浮かんだ。

…応答のように。


在庫/八日目・夜更け(更新)


・所感追記:掟の復唱に対し、器が泡で応答したかのごとき現象を確認

・記録:外印の正体 不明。夜間観測を継続


夜明け前、うたた寝の刹那に見た。

海図いっぱいに“—”の線が交差し、星は一つも描かれていなかった。


飛び起きて帳簿に走り書く。


「外印の地図が存在する」

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